相対性理論 presents『証明II』@Zepp Osaka Bayside (2017.05.06)
相対性理論の自主企画ライブ『証明II』に行ってきた。「天声ジングル」発売からは関西では初めてとなる貴重なライブ。個人的には武道館以来のライブだった。
ツインドラム体制になった相対性理論のライブはポストロックの要素が強くなってきている。今の相対性理論はやくしまるえつこをアイコンとして据える「やくしまるえつこバンド」ではあるんだけど、ボーカルを軸としたポップな演奏になるのではなくて、やくしまるえつこ名義の曲を演奏する場合でもちゃんと相対性理論がバンドとして演奏するためのアレンジが施されている。現在のライブの演奏曲は、相対性理論の新旧楽曲とやくしまるえつこ名義の楽曲の中から、今の相対性理論に最もマッチする楽曲を選んでいるのかと思うし、だからこそ万全のバンドセットで臨めるワンマンライブは楽しみだった。
今回のセットリストは、「リターンしました」とのMCで演奏が始まった「キッズ・ノーリターン」、井の頭公園のやくしまるえつこアナウンスから始まった「弁天様はスピリチュア」、「(dimtaktでフロアの両端を指しながら)ここから、ここまで、ユニバーサル・やくしまる・ジャパン」とのMCから突入した「ロンリープラネット」、そしてアンコール最終曲の「わたしは人類」を軸としながら、その間に新譜曲+αを散りばめた構成。
「ロンリープラネット」のサウンドスケープはやっぱり圧巻だったし、「弁天様はスピリチュア」の「モーニングコールして起こして」でのカタルシスも音源の比ではなくて、音響を十分に生かせる状況での相対性理論の演奏はやっぱり唯一無二だし、そこでしか感じることができないものだなあと改めて感じた。
そして一番驚いたし感動したのはアンコールラストの「わたしは人類」だった。
本編で「天声ジングル」を一周させ、世界を終わらせてからアンコールで「わたしは人類」を演奏する構成にもまず痺れたんだけど、「わたしは人類」の中盤のノイズパートを引き延ばして会場をノイズの海に飲み込ませる展開で一気に引き込まれた。
「止めて 止めて 進化を止めて」と繰り返すやくしまるさんの声に呼応するように、永井さんの鳴らすギターノイズが会場を覆う。リズムが追えないノイズの洪水の中で、かなり薄い音量で吉田さんのベースとitokenさん・山口さんがドラムを演奏し続けていて、やくしまるさんがそれに徐々に合わせながらボイスを落としていく、ノイズの中からポツリポツリと声だけが聴こえてくるというカオス。そこから少しずつベースとドラムを浮かび上がらせていくことでリズムの秩序が保たれていき、カオスからまた人類が生まれていく物語に繋がっていく、そんな構成の演奏に感動した。現体制の相対性理論の真骨頂だった。
今回のやくしまるさんの衣装であるチャイナドレスは「弁天様」だったのではって話があって、なるほど神様として今回は人類の進化と世界の輪廻を証明したんだなと、なんだか納得した一日だった。
素晴らしいライブだったんだけど、ライブ演奏がずっと頭の中をぐるぐるしてしまうのが困りもの。相対性理論、ライブ映像をリリースして欲しいなあ。
セットリスト
- ケルベロス
- 天地創造SOS
- 人工衛星
- キッズ・ノーリターン (Single ver.)
- 学級崩壊
- 弁天様はスピリチュア
- LOVEずっきゅん
- とあるAround
- わたしがわたし
- 13番目の彼女
- 夏至
- ロンリープラネット
- ミス・パラレルワールド
- フラッシュ オブ ドーパミン
- おやすみ地球
- FLASHBACK
~アンコール~
- ウルトラソーダ
- わたしは人類
2016年に良かった楽曲
くるり/琥珀色の街、上海蟹の朝
くるり - 琥珀色の街、上海蟹の朝 / Quruli - Amber Colored City, The Morning of The Shanghai Crab (Japanese ver.)
2016年最も良かったシングル曲。「ライブで演ってたくるりの新曲、何か『蟹食べたい』とか言ってた」と聞いて「???」となった思い出が。
Suchmos/STAY TUNE
Suchmos "STAY TUNE" (Official Music Video)
2016年最も格好良かったバンドと楽曲。
METAFIVE/Don't Move
METAFIVE - Don’t Move -Studio Live Version-
大御所が支える大舞台でLEO今井とCorneliusが競い絡み合うヤバい曲。
約束/向井秀徳
向井秀徳名義でここまでバンドサウンドなのはレア。重さに唸った。
やくしまるえつこ/Z女戦争
7月22日発売 やくしまるえつこ「ニュームーンに恋して/Z女戦争」30秒スポット【Z女戦争 ver.】
やくしまるえつこ名義ながら実体は相対性理論。曲のノリをバンドサウンドで再現していて、ぶっ飛ぶ。
ASA-CHANG & 巡礼/告白
ASA-CHANG&巡礼 - 告白 (Official Music Video)
アルバム「まほう」収録曲。新しくなっても「ASA-CHANG & 巡礼」はやっぱり唯一無二だった。
鎮座DOPENESS×環ROY×U-zhaan/サマージャム'95
鎮座DOPENESS×環ROY×U-zhaan / サマージャム'95
原曲のムードがそのまま再現されている驚き。新曲なのに懐かしい。
Silent Poets feat. 5lack/東京
NTTドコモのStyle'20 CM曲。初めてTVから流れたときの驚きったらなかった。20年までCMでずっと流して欲しい。
cero/街の報せ
cero / 街の報せ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
アルバム購入の特典トラックとして幻になっていた曲が正式にリリース。静かなのに慌ただしい師走のムードにぴったり。
Eccy/Lonely Planet feat. あるぱちかぶと
Eccy - Lonely Planet feat.あるぱちかぶと
あるぱちかぶとが帰ってきて本当に嬉しい!
2016年の邦楽10枚
2016年にリリースされた邦楽のアルバムから最高の10枚を選ぶ。
今年聴いた音楽の範囲はかなりApple Musicに引きずられたんだけど、Apple Musicに登録されていない音楽にも良作はもちろんあって。来年はそこまで掘れるか心配だ。
選出基準
- 邦楽のみ。国内で(も)活動するアーティストに絞る。
- 1アーティスト1枚
- コンピレーション盤は最大1枚。
宇多田ヒカル/Fantôme
- アーティスト: 宇多田ヒカル
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2016/09/28
- メディア: CD
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2016年は宇多田ヒカルが本格的に活動再開した年として刻まれるだろう。
本作、煌びやかさや派手さは無くなり円熟感が伺えたものの、歌詞の繊細さと獰猛さは健在。リスナーに寄り添う音楽になった印象がある一方で、誰にでも良い顔を見せるアルバムでもなくて、とても人間らしいアルバムだった。
「歌詞に共感した」「歌詞に救わた」なんてナイーブに感じること自体がなんだか恥ずかしいことになりつつある昨今で、歌詞の強度を保ち続けている存在なんだよなあ。日本語の音楽の良さを思い出すことができる貴重なアーティストとアルバム。
相対性理論/天声ジングル
- アーティスト: 相対性理論
- 出版社/メーカー: みらいrecords
- 発売日: 2016/04/27
- メディア: CD
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前作を上回るサウンドスケープに圧倒された。
音数の多さを内包できる音像の大きさにまず驚く。無駄な雑味がそぎ落とされた「新しい相対性理論」がようやくここに完成した。ただその一方で、リスニング環境を選ぶ作品になってしまった。安いイヤフォンで聴いてしまうと大量の音が分解できなくて辛く、なので「好事家のための音楽」とカテゴライズされてしまいかねない危うさはある。
今作は世界創造をループする構成になっていて、「アルバム作品」としての完成度も高い。相対性理論の過去作は、バンドのポテンシャルの高さをただぶん回すようなものが多かったけれど、今作はアルバムとしての完成度まできっちり高めてきた。
そういったきっちりさについての善し悪しはリスナー次第ではあるけれど、単純に作品として優れたものになったことは確実。
相対性理論「天声ジングル」予告篇(2016.4.27 on sale)
D.A.N./D.A.N.
- アーティスト: D.A.N.
- 出版社/メーカー: SSWB / BAYON PRODUCTION
- 発売日: 2016/04/20
- メディア: CD
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「何この音楽?」と何度も聴き返してしまった、新しい肌感覚のバンド。
黒くギラつくグルーヴ感がエグい。リズムが太い軸になっているのに、音の温度が異様に低くて寒気がする。耳辺りはとても新しいのに、アルバム通して一本貫かれているものがあって、ファーストアルバムなのに脆いところがない。突然変異にも程がある、ヤバいバンドが唐突に現れたことに驚き。
D.A.N. - Native Dancer (Official Video)
Moe and ghosts × 空間現代/RAP PHENOMENON
- アーティスト: Moe and ghosts ×空間現代
- 出版社/メーカー: Headz
- 発売日: 2016/04/06
- メディア: CD
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ヒップホップユニット「Moe and ghosts」と変拍子バンド「空間現代」のコラボアルバム。
「バンドサウンドをベースとした変拍子ヒップホップ(女声)」という訳の分からないことになっていて、これが異常に格好良い。トリッキーな変拍子とラップを合わせる蛮勇が自然に成立してしまっているのは、もう可笑しさがある。とりあえず少しでも聴いたらこの魅力がわかるので、是非聴いて欲しい。
Moe and ghosts × 空間現代 "RAP PHENOMENON" trailer
MOROHA/MOROHAIII
- アーティスト: MOROHA
- 出版社/メーカー: YAVAY YAYVA RECORDS
- 発売日: 2016/10/05
- メディア: CD
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今年一番エモかったのがMOROHA。
強度×純度、少年マンガのように明解な方程式で生まれた音楽の説得力でリスナーの心をぶち抜いてくる。スタイルを変えずレベルを上げることで音楽をここまで高めてきた、その道程だってエモい。熱い。その熱さに、聴いていて思わず腕を振り上げたくなるアルバム。
とりあえず「tomorrow」のPVを観て欲しい。泣く子も黙るイケメン東出昌大先生出演だし。
MOROHA『tomorrow』Official Music Video
泉まくら/アイデンティティー
リリックの繊細さが段違い。ラップのリズムセンスが段違い。去年も選んだけど、ずば抜け過ぎていて今年も選ばざるを得なかった。
今作はトラックのプロデューサーが統一されていることで、聴きやすくまとまっている上に、より泉まくらのセンスが肌で感じられる作品になっている。折角リスナーに伝わりやすいアルバムなんだもの、男女問わず、日本の十代全員に泉まくらを聴く機会がありますように。
Have a nice day!/The Manual (How to Sell My Shit)
The Manual (How to Sell My Shit)
- アーティスト: Have a Nice Day!
- 出版社/メーカー: Virgin Babylon Records
- 発売日: 2016/11/09
- メディア: CD
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今年一番ヤバかったバンド。
変化球や飛び道具を一切使うことなく、単純なフレーズの繰り返しで、ポップでダークでアンダーグラウンドなサウンドを構築することができる。これはとんでもない才能だと感じた。アルバムタイトルの「The Manual (How to Sell My Shit)」というのも痛快で、恐らく彼等ならお茶の間を賑わせるポップソングを作曲することも朝飯前だろう。そんな彼等が夜な夜なライブハウスに火を付けるために肉弾戦を仕掛けている、という事実が最高。
Have a Nice Day! ハバナイ / The Manual(How to Sell My Shit) 2016.11.09 Release
bonobos/23区
- アーティスト: bonobos
- 出版社/メーカー: Pヴァイン・レコード
- 発売日: 2016/09/21
- メディア: CD
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bonobosのここ数年のアルバムは色々実験的ではあったけれど、ここにきて突然えげつないグルーヴ感、ファンク感、ジャズ感がぶち込まれたアルバムが出てきて驚いた。bonobosらしい軽さは確かにあるけれど、過去作にあった牧歌的な印象は無い。現代らしいシティポップらしさはあるけれど、音の根底には太い弾力性が存在する。
メンバーチェンジによって大変な化学反応が起こってしまっている。「bonobos? ああ、知ってるし大体想像つくわ」と思ってスルーする前に一度聴いて欲しいアルバム。
Seiho/Collapse
Collapse [ライナーノーツ封入・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC509)
- アーティスト: Seiho,セイホー
- 出版社/メーカー: BEAT RECORDS / LEAVING RECORDS
- 発売日: 2016/05/18
- メディア: CD
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前に一度Seihoのライブを観た時に感じた「とりとめの無いような音群なのに異常に踊れるこの音楽センスヤバい」という感覚が、このアルバムではより研ぎ澄まされた形で具現化されていた。
電気的なんだけど、何故か大型動物の息吹を感じる音楽。温もりが伝わってくる。荘厳さと恐れがうっすらと伝わってくる。確かに行きている脈動が伝わってくる不思議なアルバム。
never young beach/fam fam
- アーティスト: never young beach
- 出版社/メーカー: Roman Label / BAYON PRODUCTION
- 発売日: 2016/06/08
- メディア: CD
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お別れの歌のPVが最高だから入れた訳じゃ無いけど、お別れの歌のPVは間違いなく最高。
フォークミュージックが根底にありながらも、決してただ古臭いわけじゃない。新しいインディーロックの手法を古い曲調にアレンジしているような、情熱をフォークに落とし込んでいるような、そんな手の込みようが素敵。自分達の音楽を愛していることが伝わってきて、すごく良い。
never young beach - お別れの歌 (official video)
過去の10枚
2015年の邦楽10枚
http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2016/01/02/184449
2014年の邦楽10枚
http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2014/12/31/132004
2013年の邦楽10枚
http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20131231/1388501652
2012年の邦楽10枚
http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20130115/1358261719
2011年の邦楽10枚
http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20120118/1326889267