【エレキ大浴場 29】 eastern youth/ZAZEN BOYS@京都MOJO (2016.04.23)

京都MOJO、エレキ大浴場がまたやってくれた。

bloodthirsty butchersZAZEN BOYSのツーマンから三年後。

metaparadox.hatenablog.com

eastern youthZAZEN BOYSの対バンが、ここ京都MOJOで実現した。巨頭激突、再びである。

チケットは早々にソールドアウト。数日前になって仕事の都合が付いたもののチケットがないので諦めていたところ、幸いにもTwitterで譲渡の申し出を頂くことができた。しかも店頭販売チケットの一桁番号という最前列確定の番号。大感謝だった。ありがとうございました!

最前列のステージ向かってやや右に陣取り、開演を待った。ステージと最前列の柵までの距離がゼロ、客席とステージはスクリーンで仕切られているけれども、スクリーンの向こうから息遣いが聞こえてくる。目と鼻の先でライブが始まる。開演前から異常に緊張が高まってきた。

eastern youth

ZAZEN BOYSが先かと思っていたけれども、eastern youthが先にステージに登場。メンバー交代の影響かな?

持ち時間の一時間は短い、とばかりに最初から完全燃焼状態のパフォーマンスが展開されるeastern youth。一曲目から吉野さんのメガネが曇り出すような大熱量がステージから客席に向けて放たれていく。

ベースが二宮さんから村岡さんに変わってから初めて観るeastern youthのライブだったけれども、その第一印象は「一皮むけた」サウンド。二宮さんとの三人のサウンドは「鉄壁」で、完成度の高さは随一だったけれども、村岡さんとの三人のサウンドは、分かりやすくなった音が一つ一つ襲いかかってくる「精強」な印象。どちらも強いサウンドだけれども、方向性が違う。大きく変化する可能性が感じられて、今後が楽しみになった。

三曲目「与えられた未来は要らねえ、直に掴み取る」とのMCから始まった"直に掴み取れ"でぐっと観客の熱量が上がる。客演をしていた向井さんが途中で出てくるかな?と少し思ったけれども、向井さん登場は無く、少し残念だった。ただ、そこから被災者へエールを送るように始まった"ナニクソ節"で、足下から一気に湧き上がり燃え上がった。

そして、一番盛り上がったのは"たとえば僕が死んだら"。まだまだこの曲の人気は根強く、ZAZEN BOYS含めても今日一番のモッシュが発生した。うわあ圧縮だ、おっさん元気だなあと思ったけれども、振り返ると前方に出てきたのは大学生くらいの若者が多かったのには驚いた。若いファンいるじゃないか。まだまだeastern youth現役だわ。

ラストは"街の底"。熱量極まっても、駆け足にならずに力強く噛みしめるように歌われていくところはさすがベテランの足腰を持つeastern youth。新しくなったが、持ち味は失っていないeastern youthのライブを堪能した。

ライブが終了してステージ転換が始まった時、ステージのアンプの上で一輪挿しになっていたオレンジ色のガーベラを、隣にいた女の子がローディーさんから受け取っていた。その女の子によると、ライブが終わった後にステージの一輪挿しを観客に渡すことがあるのだとか。一輪のガーベラを守るように、胸元で大事そうに抱きかかえながら次のステージを静かに待っている光景が、とてもeastern youthらしい可憐さだだった。

ZAZEN BOYS

後攻はZAZEN BOYS

最近のワンマンのライブを圧縮したようなセットリストが展開されたけれども、鉄板だった"Honnnoji"がセットリストから落ちた。"泥沼"を演らないのも珍しい。"すとーりーず"以来、新曲が作られないまま四年経っているけれど、構成は少しずつ変わってきている。

今日一番盛り上がったのは"サイボーグのオバケ"。歌詞にある「陸軍中野学校予備校理事長 村田英雄」の村田英雄を言い換えるのがライブでの定番なのだけれども、今日はプリンス。「内閣総理大臣 プリンス! 国家公安委員会委員長 プリンス! 農林水産大臣 プリンス! 陸軍中野学校予備校理事長 プリンス!」と、ゴロの悪さなんぞ屁でもないとばかりに名前を連呼し、向井さんらしくプリンスを追悼した。

しかし、そこからは「長澤まさみのブラジャー→パンツ→脱がすとそこには内蔵→倍増→倍返し→堺雅人の顔真似で『倍返しだ!』をキメる」というHENTAI展開で一気に雰囲気がエンタメに。今半沢かよ!逆に新鮮だわ!聴く度に内容の変態性が増しているサイボーグのオバケ、まだまだ留まるところを知らないようだ。

"COLD BEAT"では、ライブ中に向井さんがメンバー三人を指揮するパートがあるのだけれど、それもなかなかの支離滅裂ぶり。エンタメを通り越してシュール・狂気の域に達していた。パターンの準備なく、何をやるか突発的に考えている感じ、最近ではなかなか珍しいと思う。

今日は普段に増してクレイジーな発言が多かった向井さん、唐突な謎の身振りも多く、すっかり煙に巻かれてしまった。

アンコールは"はあとぶれいく"一曲で終了。"Asobi"か"Kimochi"で終了すると思っていたので意外だった。最後はダブルアンコールを求める拍手を、吉田一郎さんの挨拶で収めて終了した。向井さんの隣にあったいいちこの減りが悪かったので、今日はあまり体調が良くなかったのかもしれない。

セットリスト

  • 6本の狂ったハガネの振動
  • Himitsu Girl's Top Secret
  • Riff Man
  • MABOROSHI IN MY BLOOD
  • 暗黒屋
  • サイボーグのオバケ
  • 天狗
  • COLD BEAT
  • Friday Night
  • 破裂音の朝
  • 自問自答

~アンコール~

  • はあとぶれいく

終演

ライブ終了と共に、どっと疲れが襲ってきた。両バンドの演奏に引き込まれ続けていて、疲労に全く気付けていなかった。途中で冷静となる瞬間がほぼ無かったものなあ。これは唾かぶり最前列で見続けることができたせいでもあるだろう。

ステージとの距離の近さのおかげで、今日はかなり詳細にステージを眺めることができた。eastern youthの熱量も、ZAZEN BOYSの一体感も、観る距離の違いで印象が大きく変わってくるもので、今日は色々な発見があった。ライブを観る時は「なんやかんやで中央五列目~十列目位で観る」が最近よくあるパターンだったけれども、たまには違う場所で観るべきだなあ。最近は最前列で観ることにこだわることがほぼ無くなっていたけれど、やっぱり良いね、最前列。

2015年の邦楽10枚

2015年にリリースされた邦楽のアルバムから最高の10枚を選ぶ。

選出基準

  • (表題通り)邦楽のみ。国内で(も)活動するアーティストに絞る。
  • 1アーティスト1枚
  • コンピレーション盤は最大1枚。
  • シングルは除く
  • 映像作品として販売されていたものに付いてきたCDは対象外

過去の10枚

2014年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2014/12/31/132004

2013年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20131231/1388501652

2012年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20130115/1358261719

2011年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20120118/1326889267

2010年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20110411/1302534280

cero/Obscure Ride

Obscure Ride 【通常盤】

Obscure Ride 【通常盤】

一聴して「ceroってこんな音楽だっけ?」とは思ったけれど「ceroってこういうバンドだったわ」とすぐに思い直した。思い出した。そういえば前作「My Lost City」を初めて聴いた時にも同じような感想を持ったのだ。ceroはカテゴライズの先に進んでいくバンドだった。

この作品を説明するにあたっては、ソウル、ジャズ、R&B近辺のジャンルが引き合いに出されることが多く、マニアックさを語れば語るほどその複雑さばかりが印象付けられてしまうのだけれど、こんなに何も考えずに気持ち良くなれる音楽は他にない。予備知識なんて何も要らない。程良く揺らぐリズムとグルーヴに身を任せているだけで楽しさが体感できる。

邦楽のポップネスがど真ん中に一本通っていて、すっと耳に入ってくる歌詞のフレーズ。リラックスしたい時に何気なく鳴らしておきたくなる音楽。

吉田ヨウヘイgroup/paradise lost, it begins

paradise lost, it begins

paradise lost, it begins

変幻自在のアンサンブルの中にギター!ギター!ギター!コーラス!コーラス!コーラス!ドラム!トランペット!よく曲としてまとまっているなと感心する各パートの主張の強さ。なのになぜこんなにさらっと聴けてしまうのだろうか。メインボーカルの軽さが為せる技なのか。

全パート主張が強いので、推しパートを決めて楽しむことも可能。逆に言えば、一回聴くだけでは全然飲み込めない情報量があり、聴くたびに新しい発見がある。「アルバム」はこうでなくっちゃー!と広瀬すずに叫ばせたくなる、四次元ポケットのようなアルバム。

ツチヤニボンド/3

3

3

こういう所に書くレビュー的な文章は、音楽のジャンルやルーツなどを辿って書くのが最初のアプローチなんだけど、ツチヤニボンドはルーツが難解だし、この曲はこれだろうと当てずっぽうで書いても絶対外して恥かくだけなので困った。

がしかし、サイケ感、ファンク感が最高に心地良い、と恐る恐る書いてみる。曲毎に傾向は異なるアルバムなのだけれども、その土台にある「匂い」は共通していて、その匂いに含まれる、サイケ感、ファンク感を心地良く感じるのだ。

とりあえず、20世紀青少年で踊り狂いたい。

Open Reel Ensemble/Vocal Code

Vocal Code

Vocal Code

改造したオープンリールのテープレコーダーを駆使して演奏する、というこのバンドの特異な手法については置いておきたい。今作は、その手法が注目されるのみに留まる音楽ではなく、その手法によって実現された唯一無二の空気感、浮遊感が体感できるアルバムとなっている。

旅をテーマにした曲が多いせいか、このアルバムを聴くと「子供の頃に夢描いていた世界一周旅行」像が浮かび上がってくる。テレビや本の向こうにある外国。記憶の奥底に眠っていて、少しはっきりしないけれども確かに当時そこにあった、大人になったらそこに行くことができるかもしれないと夢見た情景。

そんな、ある意味レトロフューチャー的な一面も持ったこのアルバムが、一昔、二昔前の物語で未来の符号として使われた「2015年」にリリースされたことは偶然ではなさそうだ。

Jimanica/GRAND AGE

GRAND AGE

GRAND AGE

「ドラム」や「リズム」が、手数を増やす以外でどれだけ主役に、中心になれるのか。その可能性を探ることができるアルバム。音楽を聴く中で、ドラムや電子音の音色を常に強く意識させられる感覚はとても新鮮だった。

ゲストボーカルを迎えての楽曲が多い今作だけれども、中心はあくまでドラムであったりリズムパートであったりで、その表現の巧みさ、繊細さに心がときめいた。

あと、

水曜日のカンパネラ/ジパング

ジパング

ジパング

水曜日のカンパネラは、最初のアルバムを聴いて「奇抜な歌詞のアーティストだなあ」との感想以上のものが出てこず、それ以来遠ざかっていたのだけれど、今作久々に試聴したところ「こんなに温度感のあるアーティストだったっけ?」と驚かされた。はい。一曲目の華麗なステップに心を打ち抜かれた。

全編ノリが抜群に良い。ラップってノリだよね、と昔スチャダラパーに教わったことを久々に思い出したけれど、実際にノリでラップして成功しているのはスチャダラパーgroup_inouしか知らない。恐らく前例が少なく、方程式が確立されていないからだろう。水曜日のカンパネラは、そんな独自路線を大量のキャッチーなフレーズを隙間なく積み上げることで成立させている。相当な労力だ。

この大量のフレーズをミクロに追ってみると、なぜこれでノリが良くなるのか全然分からないバランス構成なのだけれど、全体を通すと小学生が登下校に口ずさんでいそうな位ポップな曲に仕上がっている。これは自分達だけで構成や表現を突き詰めないとできない芸当で、職人的な一面を持った音楽であるとも言えそうだ。聴けば聴くほど疑問が沸いてきて興味が尽きない音楽。

泉まくら/愛ならば知っている

愛ならば知っている

愛ならば知っている

程良くなった甘さが脳幹を直撃。その繊細さと大胆さに憧れる。詞の熱量と愛と毒はテラスハウスやアニメ「スペース☆ダンディ」などあらゆるシーンに漏れ出していて、もう「ご存じの通り」と書いて済ませることもできそうだ。

ただ今作で特筆したいのは、トラックと絡み合う楽器としての声と、詞を伝える方法としての声、両方が別次元で成立している点。今作は特に、前者の部分が聴きどころの一つとなっている。食品まつりやOlive Oilのトラックと対等に渡り合えるラップができる女性アーティストは、現在泉まくらだけだろう。

毎年の成長が想像以上だし、来年以降の活動も楽しみだ。

おやすみホログラム/おやすみホログラム

おやすみホログラム

おやすみホログラム

女の子二人組のアイドルユニット「おやすみホログラム」のファーストアルバム。カテゴライズすると「アイドル」になるのだろうけれど、アイドルソングを聴いている感覚は全くない。オルタナ・エモ・インディロックバンドとして聴いているし、パンク、エモ、ロックの棚にある方がしっくりくるサウンドだ。

後方でグワングワン鳴り続けるギターとベース。古きUSインディロックの流れを汲む、21世紀となっては懐かしささえ感じるバンドサウンドに「声質の異なる二人の女の子のボーカル」を組み合わせ、奇跡的なバランスで成立させたプロデューサーの腕に驚くし、ユニット二人の、バンドのボーカルとしての深いコミットにも驚いた。

音楽に限らず、アイドルが別ジャンルに進出するとその質の低さを叩かれがちだけれども、ここまで完成度が高ければ何も言われることはないだろう。胸張って夏フェスでロック勢と交わって欲しい。

ただ、どんなライブを演るのか想像がつかないな、と思ってYoutubeを検索してみたところ、ライブが完全にアイドル側のノリになっているのにも驚いた。このアーティストに関しては驚いてばかりだ。ただ最近は、ロックバンドよりアイドルのライブの方が盛り上がってる事が多い気がするので、これも「時代」なのかもしれないなあ。

左右/スカムレフト スカムライト

スカムレフト スカムライト

スカムレフト スカムライト

シンプルでミニマルな変拍子を浴び続けて悟りが開けるロック。リズムが体に染み込むまで何十回と繰り返し聴き続けることで、その先に待つ真理に辿り着ける。

聴き続けることによって生まれる「飽きた」「嫌い」といった感情は、このアルバムによって全て昇華されていく。音楽に向き合う、自分に向き合う姿勢を見直す切っ掛けになる。何回聴いたところで音楽は変わらないのだ。単純だからこそ示唆に富んだ音楽。

eastern youth/ボトムオブザワールド

ボトムオブザワールド

ボトムオブザワールド

唯一のスタイルを完成させて、シーンからの揺るぎない評価も得て、ただ、新しい音楽の流行を追っていない、同じジャンルの音楽を演り続けているバンドに対して、「その先に何があるのだろう」なんて考えてしまうことがある。

この日記のように「今年の良かったアルバムを選ぶ」なんてことをやってしまうと、そういったバンドのアルバムは除いてしまいがちだし、除いてしまったその行為によってバンドの価値を量り損ねてしまうことすらある。

eastern youthの今作は、そんな「新しい音楽を評価すべき」との考え方を吹き飛ばす作品だった。代わり映えのしない毎日が、悪い方向へ未来が進んでいるような不安がアーティストにもあって、そうした日々の中で生まれた想いが落とし込まれて、音楽が生まれるのだ。その音楽に使われている表現方法が新しいか古いかは、本来二の次であるべきなのだ。

今作は、その想いを伝えることに重点が置かれたアルバムとなっており、過去作と比べても取っつきやすくなっている。メンバー構成的には「第一部・完」といった状況ではあるのだけれど、eastern youthの入門作として強くお勧めしたい。

the chemical brothers@SUMMER SONIC 2015 (2015/08/16)

長い間、音源だけを聴きながら想い焦がれていたアーティストのライブを初めて観る、このような体験は、きっともうこのライブが最後だろう。充分に大人になり金銭的に余裕ができた今では、気に入ったアーティストのライブはその気になれば来日した時に観に行けてしまうし、新しいアーティストに情熱を傾けること自体が最近では少なくなってしまった。

the chemical brothersは、実家にいる兄から教わった最後のアーティストだった。「前はダスト・ブラザーズと名乗ってたけど、今はケミカル・ブラザーズになった」とデビューアルバムのCDを貸してもらったけれど、ダスト・ブラザーズって確か古いアーティストじゃなかったっけ? と余計に混乱した記憶が、頭の片隅に懐かしく残っている。

このアルバム "Exit Planet Dust" から受けた影響は大きかった。当時ロック一辺倒だった音楽趣味の方向性を広げられ、「CD屋のCLUBってコーナー、他にも試聴してみたら色々面白そうな音楽あるやん。ROCK以外の棚も回ろう」と積極的に興味の幅を広げるきっかけになった。当時大好きだったoasisのNoelと共演したシングル "Setting Sun" は勉学の友として何百回と聴き続けたし、次のアルバムである "Dig Your Own Hole" がリリースされる頃には逆に、アメリカンなハード・ロックを聴くことが無くなる程、興味の方向性を変えられてしまっていた。

"Surrender" がリリースされたの頃には、ROCKよりCLUBの棚の方をチェックして彼らのフォロワーを探すようになり、ハウス、アシッド、サイケデリックへアプローチを強めた "Come with Us" を聴いて、彼らに並び立つものはやはりいないと実感した。"The Golden Path" 一曲のためだけに高い値段のベスト盤を買い、その一曲のみを堪能して満足することができる程に好んでいた。

ただ、常に彼らを盲信していた訳ではなく、"Push the Button" や "We Are the Night" については、最初は良いアルバムだと感じることができないでいた。その頃は、彼らの楽曲の重厚で完成度の高い部分を野暮ったく感じるようになってしまっていたし、過去作によって高く伸びきってしまった期待のハードルを越えることが難しくなってきていた。単純に音楽に対する飽きもあった。

しかし、好こうが飽きようが、彼らの音楽は脳にしっかりと刻み込まれ続けていた。二枚目のベスト盤である "Brotherhood" のボーナスCDに収録されていた "Electronic Battle Weapon" 集を聴き、彼らの粗削りな一面に触れて、やっぱり彼らが好きなんだなと再認識させられた。そして、オリジナルアルバムとはまた違う彼らの魅力に触れたい、ライブを観たい、と強く感じるようになった。

その後、行けなかったフジロックでのライブを収録した "Don't Think" の映像を劇場で上映すると知り、ミナミまで足を運んだ。そこでは、長い間聴き倒した音源達が姿を変えて次々に襲いかかってくる映像に衝撃を受けたけれども、そのライブパフォーマンスの素晴らしさに「ライブ映像」という形態の限界も感じられてしまった。やはり、生でライブを感じなければならない。次の機会は逃すまい。

このような期待の高まりがあった上で2015年、来日の報が耳に入ってきた。しかもフェスだ。"Don't Think" のリベンジをするにはもってこいの舞台で、気持ちが盛り上がらないわけがなかった。


SUMMER SONIC大阪の一日目、熱中症で体調を崩し、さらに二日目、財布を落とし、過去に体験したことが無いトラブルが個人的に多発したフェスだったのだけれど、不思議とヘッドライナーのthe chemical brothersを迎える気持ちには曇りがなかった。

彼らを観ることがこの土日の最大の目的であり、それに直接影響のないトラブルは、些末なものでしかなかった。

開演を前にして、どの曲を演って欲しい、という気持ちは全く沸かなかった。特別好きな曲は幾つかあるけれども、どの曲でも盛り上がる事ができそうな心持ちだった。どの曲も演って欲しいという気持ち、と言い換えることができたかもしれない。

開演時間になっても彼らはなかなか姿を現さなかった。ただ、回転数を落としたthe beatlesの "Tomorrow Never Knows" のボーカルフレーズ "Surrender to the void" が何度も何度もループする、その奇妙な状況から少しずつ、場の雰囲気が作られていった。

ようやく二人がステージに姿を現したのは、開演時間から約15分後だった。

そして、待ちくたびれて一触即発状態の観客に投下されたフレーズ "Hey girls" で、空気が爆発する。一曲目 "Hey Boy Hey Girl" のイントロだけで、Superstar DJ'sはその場の空気と歓声を一気に掴み取った。曲を知らなくてもノリで盛り上がることができるHBHGは最強だ。

体力の限り延々熱狂し続けられそうなHBHGから "EML Ritual" で少しクールダウン。そして "Do It Again" で、展開の再構築が開始される。ここから、最新シングルの "Go" に繋げる流れが圧巻だった。リードトラックなのに、Do It Againからのトラックの流れを残して大胆に再構築。地味ながら屈強なトラックに生まれ変わった新曲に対し、観客からの喝采が次第に大きくなっていく。

そして、"Swoon" のイントロフレーズでその喝采がピークに達した。ここから "Star Guitar" への流れはフジロック同様だったけれど、分かっていても興奮が冷めることは全くない。分かっていても次の音を、次の展開を欲してしまう。これが聴きたかったのだ。夢にまで観たシーンが今、目の前で演奏されていることに感動した。

シングル曲と新譜曲で構成されるこのセットでは、新譜曲がブリッジ役を勤めることになる。 "Sometimes I Feel So Deserted" で改めて立て直し、彼らの代名詞である "Chemical Beats" からバキバキと再着火。それから、"Acid Children" で空気をビリビリと尖らせて、"Setting Sun" のボーカルフレーズを突っ込んで会場を一気に沸騰させる。もう代表曲何曲あるねん状態。どこからでも沸かせられるマジックカットアップが、あのステージの機器には詰まっていた。

"Setting Sun" は "Out of Control" のベースフレーズと組み合わせたスピード感のあるアレンジになっていて、ここで観客のボルテージは最高潮に達した。しかし、彼らはまだ止まらない。 "It Doesn't Matter" を挟んでから、満を持して "Saturate" を投下。手拍子を誘ってから、じわじわと高めて最後には爆発できることができるこの曲で、観客は万歳しながら大歓声。何度目の爆発か。

盛り上がり過ぎてそろそろ頭が麻痺してきた頃、ここから急に "Electrobank" で狂気の世界に突入させられる。さらに、 "I'll See You There" で白塗り舞踏の映像を記憶に焼印されられる。

そして、攻撃的なアレンジが施された "Believe" で盛り上がり殺されて、本編が終了。もう結構な時間演ったように思えたけれど、アンコールへ続きそうな余韻が当然のように残されていて、観客も小休止状態。

緩やかに "The Sunshine Underground" が流れる中、彼らが再登場する。そこから、煌めくフレーズ "Escape Velocity" で一気に加速。そして "Don't Think" のボーカルフレーズが挟み込まれながらの "Under the Influence" に突入。

ここで突然、レトロ感溢れる赤青の巨大ブリキ系ロボットが二体ステージの左右に登場し、手足をバタバタさせながら目からビカビカとレーザーを発射し始めた。アンコールに入ってからのまさかの大仕掛けに大興奮。最後には耳から煙を吹き出し、音楽と共にロボットも停止してしまう演出もあって、こちらにはなんでやねんと大爆笑。

これで終わるか?と一瞬思ったが "Galvanize" のイントロで引き戻される。まだまだ終わらない。"Music: Response" を軽くねじ込みながら、お待ちかねの "Block Rockin' Beats" で観客の体力を絞り尽くす。このBRBが最後の曲となった。

ライブ終了後、打ち上がった花火を見ながらふと時計を見ると21時20分。タイムテーブルの終演予定より30分オーバーだ。ワンマンのようなボリュームのライブだった。

新旧代表曲のフルコースで何度も何度も盛り上がり続けたライブだった。聴いた当時の思い出が走馬灯のように駆け巡った……なんてことはなく、ただただ無心で興奮できたライブだった。ライブを観始めた頃のような新鮮な感覚で、脳に刻み込まれた音楽が無意識に掘り起こされる、一度きり二度とない体験をすることができた。

  • Hey Boy Hey Girl
  • EML Ritual
  • Do It Again
  • Go
  • Swoon
  • Star Guitar
  • Sometimes I Feel So Deserted
  • Chemical Beats
  • Acid Children
  • Setting Sun/Out of Control
  • It Doesn't Matter
  • Saturate
  • Electrobank
  • I'll See You There
  • Believe
  • The Sunshine Underground
  • Escape Velocity
  • Under the Influence / Don't Think
  • Galvanize
  • Music: Response
  • Block Rockin' Beats

時々で濃度は違えど、好きでい続けている。こんなアーティストとの関係は、音楽を好きでい続けてさえいれば、きっと誰にでもある。日々、何気なく聴いている音楽との時間が薄く薄く積み重なった結果、その地層に深く染み入るような感覚に感動してしまったのだろう。

この感動は、即席で見知った知識だけでは得ることはできないけれど、得るためには特別な才能はいらない。流行に左右されることなく、ただ地道に一つ一つ音楽を噛み締めていくことの大切さを感じたライブだった。