2015年の邦楽10枚

2015年にリリースされた邦楽のアルバムから最高の10枚を選ぶ。

選出基準

  • (表題通り)邦楽のみ。国内で(も)活動するアーティストに絞る。
  • 1アーティスト1枚
  • コンピレーション盤は最大1枚。
  • シングルは除く
  • 映像作品として販売されていたものに付いてきたCDは対象外

過去の10枚

2014年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2014/12/31/132004

2013年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20131231/1388501652

2012年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20130115/1358261719

2011年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20120118/1326889267

2010年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20110411/1302534280

cero/Obscure Ride

Obscure Ride 【通常盤】

Obscure Ride 【通常盤】

一聴して「ceroってこんな音楽だっけ?」とは思ったけれど「ceroってこういうバンドだったわ」とすぐに思い直した。思い出した。そういえば前作「My Lost City」を初めて聴いた時にも同じような感想を持ったのだ。ceroはカテゴライズの先に進んでいくバンドだった。

この作品を説明するにあたっては、ソウル、ジャズ、R&B近辺のジャンルが引き合いに出されることが多く、マニアックさを語れば語るほどその複雑さばかりが印象付けられてしまうのだけれど、こんなに何も考えずに気持ち良くなれる音楽は他にない。予備知識なんて何も要らない。程良く揺らぐリズムとグルーヴに身を任せているだけで楽しさが体感できる。

邦楽のポップネスがど真ん中に一本通っていて、すっと耳に入ってくる歌詞のフレーズ。リラックスしたい時に何気なく鳴らしておきたくなる音楽。

吉田ヨウヘイgroup/paradise lost, it begins

paradise lost, it begins

paradise lost, it begins

変幻自在のアンサンブルの中にギター!ギター!ギター!コーラス!コーラス!コーラス!ドラム!トランペット!よく曲としてまとまっているなと感心する各パートの主張の強さ。なのになぜこんなにさらっと聴けてしまうのだろうか。メインボーカルの軽さが為せる技なのか。

全パート主張が強いので、推しパートを決めて楽しむことも可能。逆に言えば、一回聴くだけでは全然飲み込めない情報量があり、聴くたびに新しい発見がある。「アルバム」はこうでなくっちゃー!と広瀬すずに叫ばせたくなる、四次元ポケットのようなアルバム。

ツチヤニボンド/3

3

3

こういう所に書くレビュー的な文章は、音楽のジャンルやルーツなどを辿って書くのが最初のアプローチなんだけど、ツチヤニボンドはルーツが難解だし、この曲はこれだろうと当てずっぽうで書いても絶対外して恥かくだけなので困った。

がしかし、サイケ感、ファンク感が最高に心地良い、と恐る恐る書いてみる。曲毎に傾向は異なるアルバムなのだけれども、その土台にある「匂い」は共通していて、その匂いに含まれる、サイケ感、ファンク感を心地良く感じるのだ。

とりあえず、20世紀青少年で踊り狂いたい。

Open Reel Ensemble/Vocal Code

Vocal Code

Vocal Code

改造したオープンリールのテープレコーダーを駆使して演奏する、というこのバンドの特異な手法については置いておきたい。今作は、その手法が注目されるのみに留まる音楽ではなく、その手法によって実現された唯一無二の空気感、浮遊感が体感できるアルバムとなっている。

旅をテーマにした曲が多いせいか、このアルバムを聴くと「子供の頃に夢描いていた世界一周旅行」像が浮かび上がってくる。テレビや本の向こうにある外国。記憶の奥底に眠っていて、少しはっきりしないけれども確かに当時そこにあった、大人になったらそこに行くことができるかもしれないと夢見た情景。

そんな、ある意味レトロフューチャー的な一面も持ったこのアルバムが、一昔、二昔前の物語で未来の符号として使われた「2015年」にリリースされたことは偶然ではなさそうだ。

Jimanica/GRAND AGE

GRAND AGE

GRAND AGE

「ドラム」や「リズム」が、手数を増やす以外でどれだけ主役に、中心になれるのか。その可能性を探ることができるアルバム。音楽を聴く中で、ドラムや電子音の音色を常に強く意識させられる感覚はとても新鮮だった。

ゲストボーカルを迎えての楽曲が多い今作だけれども、中心はあくまでドラムであったりリズムパートであったりで、その表現の巧みさ、繊細さに心がときめいた。

あと、

水曜日のカンパネラ/ジパング

ジパング

ジパング

水曜日のカンパネラは、最初のアルバムを聴いて「奇抜な歌詞のアーティストだなあ」との感想以上のものが出てこず、それ以来遠ざかっていたのだけれど、今作久々に試聴したところ「こんなに温度感のあるアーティストだったっけ?」と驚かされた。はい。一曲目の華麗なステップに心を打ち抜かれた。

全編ノリが抜群に良い。ラップってノリだよね、と昔スチャダラパーに教わったことを久々に思い出したけれど、実際にノリでラップして成功しているのはスチャダラパーgroup_inouしか知らない。恐らく前例が少なく、方程式が確立されていないからだろう。水曜日のカンパネラは、そんな独自路線を大量のキャッチーなフレーズを隙間なく積み上げることで成立させている。相当な労力だ。

この大量のフレーズをミクロに追ってみると、なぜこれでノリが良くなるのか全然分からないバランス構成なのだけれど、全体を通すと小学生が登下校に口ずさんでいそうな位ポップな曲に仕上がっている。これは自分達だけで構成や表現を突き詰めないとできない芸当で、職人的な一面を持った音楽であるとも言えそうだ。聴けば聴くほど疑問が沸いてきて興味が尽きない音楽。

泉まくら/愛ならば知っている

愛ならば知っている

愛ならば知っている

程良くなった甘さが脳幹を直撃。その繊細さと大胆さに憧れる。詞の熱量と愛と毒はテラスハウスやアニメ「スペース☆ダンディ」などあらゆるシーンに漏れ出していて、もう「ご存じの通り」と書いて済ませることもできそうだ。

ただ今作で特筆したいのは、トラックと絡み合う楽器としての声と、詞を伝える方法としての声、両方が別次元で成立している点。今作は特に、前者の部分が聴きどころの一つとなっている。食品まつりやOlive Oilのトラックと対等に渡り合えるラップができる女性アーティストは、現在泉まくらだけだろう。

毎年の成長が想像以上だし、来年以降の活動も楽しみだ。

おやすみホログラム/おやすみホログラム

おやすみホログラム

おやすみホログラム

女の子二人組のアイドルユニット「おやすみホログラム」のファーストアルバム。カテゴライズすると「アイドル」になるのだろうけれど、アイドルソングを聴いている感覚は全くない。オルタナ・エモ・インディロックバンドとして聴いているし、パンク、エモ、ロックの棚にある方がしっくりくるサウンドだ。

後方でグワングワン鳴り続けるギターとベース。古きUSインディロックの流れを汲む、21世紀となっては懐かしささえ感じるバンドサウンドに「声質の異なる二人の女の子のボーカル」を組み合わせ、奇跡的なバランスで成立させたプロデューサーの腕に驚くし、ユニット二人の、バンドのボーカルとしての深いコミットにも驚いた。

音楽に限らず、アイドルが別ジャンルに進出するとその質の低さを叩かれがちだけれども、ここまで完成度が高ければ何も言われることはないだろう。胸張って夏フェスでロック勢と交わって欲しい。

ただ、どんなライブを演るのか想像がつかないな、と思ってYoutubeを検索してみたところ、ライブが完全にアイドル側のノリになっているのにも驚いた。このアーティストに関しては驚いてばかりだ。ただ最近は、ロックバンドよりアイドルのライブの方が盛り上がってる事が多い気がするので、これも「時代」なのかもしれないなあ。

左右/スカムレフト スカムライト

スカムレフト スカムライト

スカムレフト スカムライト

シンプルでミニマルな変拍子を浴び続けて悟りが開けるロック。リズムが体に染み込むまで何十回と繰り返し聴き続けることで、その先に待つ真理に辿り着ける。

聴き続けることによって生まれる「飽きた」「嫌い」といった感情は、このアルバムによって全て昇華されていく。音楽に向き合う、自分に向き合う姿勢を見直す切っ掛けになる。何回聴いたところで音楽は変わらないのだ。単純だからこそ示唆に富んだ音楽。

eastern youth/ボトムオブザワールド

ボトムオブザワールド

ボトムオブザワールド

唯一のスタイルを完成させて、シーンからの揺るぎない評価も得て、ただ、新しい音楽の流行を追っていない、同じジャンルの音楽を演り続けているバンドに対して、「その先に何があるのだろう」なんて考えてしまうことがある。

この日記のように「今年の良かったアルバムを選ぶ」なんてことをやってしまうと、そういったバンドのアルバムは除いてしまいがちだし、除いてしまったその行為によってバンドの価値を量り損ねてしまうことすらある。

eastern youthの今作は、そんな「新しい音楽を評価すべき」との考え方を吹き飛ばす作品だった。代わり映えのしない毎日が、悪い方向へ未来が進んでいるような不安がアーティストにもあって、そうした日々の中で生まれた想いが落とし込まれて、音楽が生まれるのだ。その音楽に使われている表現方法が新しいか古いかは、本来二の次であるべきなのだ。

今作は、その想いを伝えることに重点が置かれたアルバムとなっており、過去作と比べても取っつきやすくなっている。メンバー構成的には「第一部・完」といった状況ではあるのだけれど、eastern youthの入門作として強くお勧めしたい。