ジェフリー・S・ローゼンタール/運は数学にまかせなさい

運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 ((ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ))

運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 ((ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ))


この本は「確率・統計に学ぶ処世術」というサブタイトルの通り、実は生活に密着している「確率・統計」の初歩的な考え方をレクチャーする、数学入門書である。最近ハヤカワ文庫より文庫化された。
「数学入門書」なんだけれども、数式はでてこないので、式が出たらもう分からない、という人でもきっと読める。(とはいえ数学の話を400ページもされるので頭は疲れるけれど……)

(算数でなく)「数学」の中で、社会に出て一番活用される機会があるものは「確率・統計」じゃないだろうか。
二次方程式微分積分だの、立体図形の面積だの行列だのが、実際の生活で必要とされるシーンなんてほとんどない。それよりも確率や統計の方がよほど活用しているはずで、「こんな勉強が何の役に立つんだよ」とぼやいている中高生もせめて「確率・統計」をきちんと勉強すべきなのだ。


……と書いていたらマイミクの友達に怒られたので補足。
(仕事などでは特に)生活をしていると「統計を使った方が良いケース」というのがバンバン出てくるんだけれども、統計とか足を突っ込むと微分積分の知識が必須。微分積分が分からないと、統計ツールを使っても、結果の意味が理解できない。
だから、数学はちゃんと勉強しておいた方が良いよ。文系でも。高校や大学は系統で分かれるかもしれないけれど、人生は文系理系でばっさり分かれてくれないもんね。



えっ?生活の中で「統計」なんて目にしたこと無いよー、という人もいるかもしれないけれども、案外、実際、最近、統計の恩恵を日本中で目の当たりにするイベントがあったんよね。参議院選挙というイベントが。

参議院選挙の日は8時から各局選挙特番があったけれども、あの選挙特番の番組で、票がまだ全然開いてないのに各候補者にバンバン「当選確実」が付くのを不思議に思わないだろうか。
出口調査で調べてるからでしょ?」という意見。もっともだけれども、出口調査だけで「当選確実」は付けるのなら、投票終了後に当選確実がバババッと付くはず。実際は開票が進むにつれて「当選確実」が増えているので、どうも「出口調査」と「開票速報」によって「当選確実」を付けているようだ。でも、なぜ、「開票10%」でも当選確実がバンバン付いちゃうのか。

その「当選確実」を付ける基準の理論となっているのが「統計と確率」なのだ。
具体的にどのような基準で付けているかは分からないけれども(統一基準があったら全テレビ局同じタイミングで当確が出てるはず)、どのような考え方で「当選確実」を付けようとしているのかは、この本に書かれている。


……ええ、はい。そんなの興味ない、テレビ局や新聞社が勝手に上手くやって下さい、と。仰るとおり。



ではこんなものはどうだろうか。
totoBIGのキャリーオーバーが○○億円!というニュースが流れることがあるけれども、あのtotoBIGってもしかして、6億円(1等の最高当選額)当たる可能性がある場合は滅茶苦茶お得なんじゃない?実は資金さえあれば絶対勝てる博打なんじゃない?と考えたことはないだろうか。

しかしながら、やっぱり、1等が必ず6億円当たるとしても、totoBIGは負ける博打なのだ。
これも、「確率」で証明できる。期待値の考え方で。
totoBIGは、14試合の「勝ち・負け・引き分け」を全て的中したら1等だ。「勝ち・負け・引き分け」の選択はコンピューターでランダムに決められてしまうので、各試合的中する確率は1/3。よって当選確率は1/3の14乗で、1/4,782,969。
1等が6億円なので、1等だけを考えると期待値は600,000,000円*(1/4,782,969)=125.445...円。一口が300 円なので、これだけじゃ半額にも達していない!
もちろん2等以下が当たる可能性も忘れちゃ駄目だ。これはtotoのホームページに、「当選金の配分割合」というものが書かれており、1等の配分は78%、2等以下の配分割合は22%とされている。totoはちゃんとデータを出してくれていて親切だなあ。
ということでそのデータを拝借。かなり乱暴に高めに計算したとして、2等以下の期待値を合わせても125.445円÷0.78=160円強、というところだ。つまり、300円のくじを買っても、160円強のリターンしか期待できないってこと。
宝くじと同様、totoBIGも儲からない博打、というのがよく分かる。


……ええ、はい。数式出てきた、わけ分からん、ごもっとも。
ただ、数式なんて覚える必要はない。胴元が損するような旨い博打はやっぱりない、ということさえ覚えていればOK。この本ではそれを、教えてくれる。



他にも、「○○市には何百と交差点があるが、このある一つの交差点で死亡事故の10%もが発生しているらしい。果たしてこの交差点を通るべきか?」みたいな迷いや、「口が臭い気がするけれども、今日喋った5人には指摘されていないから大丈夫かな?」みたいな問題にまで、解決の指針を与えてくれる。

学校では勉強しなかったけれども、数学って面白かったんじゃないか、確率って統計って面白いんじゃないか、と思っている人にとってはきっと面白い本。
あと、カイジライアーゲームなどの漫画が好きな人にもお勧め。

個人的には、そこらの自己啓発ビジネス本を読むより、よほどためになる本だと思う。