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2013年の漫画5タイトル

2013年に単行本が発行された漫画の中から面白かった5タイトルを選ぶ。

今年から5タイトルに変更し、あらすじ部分は公式サイトから引用するようにした。

過去の10タイトル

選出基準

  • その年に単行本が発行された漫画
  • 過去選出作品は原則除く

ひきだしにテラリウム/九井諒子

Matogrosso連載 全一巻

笑顔と涙、驚きと共感。コメディ、昔話、ファンタジー、SF……万華鏡のようにきらめく掌編33篇。

ひきだしにテラリウム

ひきだしにテラリウム

Amazonの文芸サイト「Matogrosso」で隔週数ページで連載されていた漫画。アイディアの斬新さが特徴である作家なので、隔週連載は厳しいのではないか、アイディアが枯渇するのではないか、絵が荒れるのではないかと心配しながら追っていたけれど、全くの杞憂だった。掌編でしか成り立たないアイディアも多くあり、むしろこの掌編スタイルこそが作者に合っているのかもしれないとすら感じた。

長編ができそうなネタ、Web漫画として一ページに収まりそうなネタ、ショートショートらしいオチの利いたネタ、一呼吸置いてニヤリとできるネタ、色々なネタが数ページに納められている。それによって各掌編に濃淡ができており、掌編集としてまとめて読み進めるにあたって程良いアクセントになっている。絵柄も幅広いため読んでいて飽きることがなく、33篇と盛り沢山なのにあっという間に読み切れてしまう。

Matogrossoが「文芸サイト」で漫画の掲載が主でなかったこともあり、人を選ばない(知識の前提を問わない)作品集になっていることも本作品の特徴。九井さん入門編として万人にお勧めできる漫画。

千と万/関谷あさみ

コミックハイ!連載中 単行本最新1巻

何気ない日常に起こる出来事に泣いたり笑ったり。それが出来るのは父がいるから、そして娘がいてくれるから。人気作家・関谷あさみが描く、ありきたりだけど大切な日々の物語。

思春期の娘と父の二人暮らしの日常を描く漫画。

「父と娘の二人暮らし」という組み合わせを題材とすることは珍しくなく、最近はその題材に+α(血縁や食べ物など)を加えての物語が多いのだけれど、本作品は父と娘の二人暮らしの日常を描くのみ。ただ、そんなよくある題材でも関谷さんが描くことで面白くなっている。

青年誌で「父と娘の二人暮らし」が題材になる漫画は父視点がメインとなることが多いのだけれど、本作品は父以外の視点、娘視点や第三者の視点も多い。客観的にこの父と娘の関係を見守ることができる点が心地良い。

「父にとっての娘の分からなさ」「娘にとっての父の分からなさ」この両方を様々な視点で描きつつも、その根底にはお互いへの信頼が描かれていることで、読者はリラックスしながら読むことができる。「分からない」ことより「分かりあう」ことに主眼が置かれている点がとても優しい。

あと、シンプルに娘の表情がかわいい。さすが関谷さん。

僕は問題ありません/宮崎夏次系

モーニング・ツー連載 短編集

「大丈夫な人」と、「大丈夫じゃない人」。その境目は、どこにある? 問題ある・なしの基準は誰が決めるの?

この「世界」から、はみだした僕らの物語。唯一無二の感性で、今作でも軽やかに、あなたの常識をぶっとばします。

僕は問題ありません (モーニング KC)

僕は問題ありません (モーニング KC)

前作「変身のニュース」に続く二作目の短編集。描写の斬新さに、物語性が追いついて化学反応を起こしている一冊。

絵柄から「サブカル系の人達が持ち上げている、絵に癖があって面白いってことになっている、正直よく分からないけれど否定し辛い系の漫画でしょ」と切り捨ててしまう人が結構いると思うのだけれど、この作者の漫画は読まず嫌いせずに一度読んで欲しい。

今は公式サイトで一話が読めるようになっている。

http://www.moae.jp/comic/mondaiarimasen

感情が溢れ出し暴走する瞬間を切り取る描写が絶品。物語の繊細さが絵とマッチして、唐突に心を鷲掴みされる漫画。クセになる。

わたしの宇宙/野田彩子

IKKI連載中 単行本最新1巻

中学二年生の津乃峰アリスは、クラスメイトの星野宇宙から「自分達がいる世界はマンガで、僕が主人公である」と告白された。そう言われてみると、確かに見える「フキダシ」。常に“何者か"に“読まれている"状態での学校生活…アリスのプライベートも、心の中も、すべて丸見えに? そしてその先にある「真相」とは? IKKI新人賞・イキマン出身の実力派新人作家、超待望の初単行本!

わたしの宇宙 1 (IKKI COMIX)

わたしの宇宙 1 (IKKI COMIX)

「漫画の中の登場人物が、自分の世界が漫画だと気付く」という設定が出てくると、その世界の謎を解き明かすか、その構造を逆手に取ってコメディ的に落とすかどちらかになりそうだけれど、この漫画はどちらの要素も兼ね備えており、そのバランスが丁度良い。

世界の謎を解き明かすことが物語の本線となっているのだけれど、過度にシリアスに描かれることがなく、真剣さを押し売りしてこないので、肩の力を抜きながら物語を追うことができる。ただ、メタ表現によって読者も物語に巻き込んでくるので、そんなに油断もできない。その匙加減が丁度良い。

作者の野田彩子さんはこれが初単行本なのだけれど、懐の広さは新人とは思えない。一見癖がありそうな絵柄だけれど、ポップな描写もお手のもの。表紙の絵柄でお堅い面倒な漫画を想像した人も、試し読みをしてみると印象が変わって興味を持てると思う。

http://www.ikki-para.com/tameshi/watashino/

作者の物語力も作画力が高いので、作者コメントで「実力派新人の野田彩子です」なんて宣っている点も「確かに」と素直に笑えてしまう。この物語の先も、作者の先も楽しみ。

アリスと蔵六今井哲也

月刊COMICリュウ連載中 単行本最新2巻

“アリスの夢”と呼ばれる、「想像すれば願いが叶う」能力を持つ子供たち。それゆえ閉じ込められて、研究対象とされている…。ある日、「想像できるものは物理法則を無視してなんでも具現化できる」特別な能力を持つ通称“赤の女王”…紗名が逃げ出した。

小さな背中に過酷な運命を背負った少女。現実世界との邂逅は、彼女に何をもたらすのか…!?

アフタヌーン出身の作者が、SFに強いCOMICリュウに連載誌を移しての作品。元々SFを題材にする漫画が得意な作者であることもあり、SF色が強い漫画となっている。しかしながら、今井さんの持ち味である人間描写の丁寧さは健在。

超能力者である「アリス」と対比して描写される一般人の爺さん「蔵六」のアクセント的存在感が大きく、SF設定が説明される描写の間でも読者が置いて行かれることがない。一般人の蔵六が生き生きと我が道を突き進むことで、SF設定の中で物語が閉じてしまわない点は、さすが今井さん。期待を裏切らない。

今井さんの絵が荒削りなのは相変わらずで、バトルのような込み入ったシーンになると何がなんだか分からなくなることもあるのだけれども、2巻では読みやすくなっていた。物語はまだ始まったばかりで、この先が期待できる。