【レビュー】スパイスカレー事典

スパイスカレー事典

スパイスカレー事典

  • 作者:水野 仁輔
  • 発売日: 2016/05/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

家にいる時間が長くなりそうだったので、時間がかかりそうな料理をしよう、市販のルーに頼らないカレーを作ろう、とスパイスカレーのレシピをネットで漁っていたのだけれど、ネットのレシピを参考にして作るとどうも失敗ばかりしてしまう。カレーのようにどう作っても美味くできてしまうだろうと思い込んでいるものに失敗するとショックが大きいし、スーパーで買い込んだカレー以外に使うあてがないスパイスに顔向けができない。

何度か失敗した結果、どうやら真剣なレシピで作らないと駄目そうだとわかってきたので、信頼できそうな市販のレシピ本に頼ることにした。スパイスカレーのレシピ本を色々調べて、一番活用できそうだったこの本を購入、結果大正解だったので、感謝の気持ちを込めておすすめをする。

初心者向けレシピ本として

「スパイスカレー事典」と上級者向けそうなタイトルだけれど、(スパイス沼にはまる覚悟があるなら)スパイスカレー本の一冊目として買ってもついていける内容。最初にベーシックなチキンカレーのレシピと、調理の手順とポイントが細かく書かれていて、この通りにやっていたら失敗のしようがないという説明になっている。

例えば玉ねぎを炒めてからスパイスを混ぜ合わせるプロセスは、二十ステップ以上の説明になっていて、それぞれのステップでのフライパンの状態を示す写真が付いている。その上で玉ねぎの炒め方についてはコラムでもいくつかコツの補足がある。「炒める」ことにここまで説明を割いた本があっただろうか? というくらいの説明で、書かれている通りのことをやると、書かれている通りのものができる。文字にすると当たり前のように思えるけれど、レシピ通りに作ってみたつもりでも、勘所を外していて失敗するのがスパイスカレー作りなのだ。

あとQ&Aのコーナーとして、準備やレシピについての細かな補足がされているのもありがたい。通常は一回失敗して学ぶポイントが、失敗しなくても学べるようにまとめられている。どこまでが自由で、どこが外せない勘所なのかが理解できるようになっていて、安心してベーシックを学び、そこから発展できるようになっている。

市販のルーを使ったカレーは、どんな具材でもルーが味をカバーしてくれるので、適当に調理しても失敗にはならないのだけれど、自分でスパイスを混ぜて作るカレーは、ちゃんと作らないと美味しいカレーにならない。世の中のスパイスカレー店は自由な味付けをしているように感じるけれど、あの自由さは相当な努力と研究、繊細さの元で作られていて、素人が適当に素材だけ真似て作ると確実に失敗する。

まずはちゃんとベーシックなレシピを学んで経験を積んでから、一歩一歩、創意工夫をしていくこと、それをこの本は教えてくれる。

基本から応用へ

世の中のスパイスカレーのレシピには、「コリアンダーを大さじ1、ターメリックを小さじ1、クミンを小さじ1……」といったように色々なスパイスの名称が列挙されるけれど、そのスパイスがどういった役割のものなのかはあまり触れられていない。ターメリックがウコンでカレー色の元になっている、というのは一般的な知識としてあるけれど、他のスパイスはラベルの雰囲気で「カレー味の元っぽいもの」「辛さの元っぽいもの」位しかわからない。

そんな程度の知識だと、よく分からないままにレシピを参考にしながらスパイスを揃えることになる。価値がわからないものにお金を出すのは結構苦痛だし、スパイスの役割がわからないと工夫もやりようがない。ネットでスパイスの黄金比みたいな記事を見かけても、どの記事も比率が違って、何が正しいのか判断ができない。適当にアレンジしてみたけれどなんだか変な味になって、鍋の中身の救い方もわからない、とりあえずS&Bの赤缶カレー粉入れて誤魔化すか、ということになってしまうと、スパイスカレー作りもつまらない。

この本では、どのスパイスがどういった役割を持っているのか、説明のページがある。スパイスカレーを作るような人がレシピ通りに作るだけで満足するわけがない、自分の好きな味を探求できてこそのスパイスカレーだ、という前提の上で、ちゃんとアレンジする方法が説明されている。(恐らくこのアレンジの方法に焦点を置いた本が、同じ著者の「スパイスカレーを作る」なのだと思う)

レシピ通りのスパイスを準備できない場合でも、スパイスの役割と向き不向きが理解できていれば、抜いたり代用したりできる。勘所を外さずに、ある程度の自由なアレンジができるようになる。またカレー以外でスパイスを使うレシピも(「スパイスカレー事典」なのに!)紹介されており、そういったレシピから各スパイスの特徴を理解することができるようにもなっている。読み進めれば、揃えたスパイスが「カレー専用スパイス」として棚の奥にしまい込まれることもない。

読み物として

巻末に読み物が付いているのだけれど、特におもしろいのはシェフへのスパイス観のインタビュー。大阪のスパイスカレー屋の店主へのインタビューが掲載されていて、スパイスカレー屋が好きな人だったら楽しめる内容だし、自分でカレーを作ってから読むと、やっぱりこの人たち発想が突き抜けてるな、と感じられて面白い。

まとめ

お薦めできるポイント

  • ネットのレシピとは一線を画す丁寧な調理説明
  • 基本から応用まで一冊で対応
  • 読み物として面白い

注意ポイント

  • 手軽にスパイスカレーが作れる本ではない(そもそもスパイスカレー作りは手軽ではない)
  • スパイスを揃えるつもりがないと価値が無い
  • スパイスカレーを作るレシピ本に2600円+税が出せるか

お題「#おうち時間