【エレキ大浴場 17】 血に飢えたツーマンシリーズ 其の二〜血に飢えたMATSURI SESSION編〜 (bloodthirsty butchers/ZAZEN BOYS)
bloodthirsty butchersとZAZEN BOYSのツーマン。
90年代後半に日本のオルタナティブロックの洗礼を浴びた人々にとって「俺の考えた最強のツーマン」となる組み合わせであり、夢のようで信憑性がまるで感じられない響きのツーマンだ。更にそれが千人収容クラスの大箱ではなく、京都の小箱で行われるということも夢のよう。どうもふわふわとしたブッキングである。
この話はどうも自分にとって都合が良くて、嘘くさい。ポスターの画像を見てもファンの悪戯の可能性を疑ってしまう。そして極め付けには「会場に行くとそこにはドッキリの看板が!」という夢を前日実際に見る始末。
しかし、実際にこのライブは確かにあった。
この組み合わせで京都MOJOというキャパを考えると、一般販売が即完しなかったことに驚いていたのだけれど、やはりチケットは早々にソールドアウト。当日券を求める人々も多く会場には詰めかけていたようで、観客も開演前から詰め詰めの状態に。京都MOJOのキャパの限界に挑戦するような観客の入り具合でライブは始まった。
先行はゲストのZAZEN BOYS。今日のビールはキリンラガー。
ZAZEN BOYS
ZAZEN BOYSは新譜レコ発ワンマンツアー初日の梅田クラブクアトロ以来。その半年前の演奏よりも数枚殻が破れた状態に仕上がっていた。
セットリストは9月の新木場でのライブに近く、それに加えて鉄板の三曲を中盤に盛り込んできた格好。この構成が新しいZAZEN BOYSのイベントセットとして定着しそうだ。
新曲への支持
ここでまず特筆したいのは、その鉄板の三曲「Honnoji」「Himitsu Girl's Top Secret」「Riff Man」よりも、他の曲の方により歓声が上がっていたことだ。上述の三曲に頼らずともライブが盛り上がったのは、二、三年前までのZAZEN BOYSのライブ傾向からすると大きな驚きであり、ようやく現メンバー体制で一つのピークを迎えることが出来つつあるのだろうと感じた。これは大きな一歩だ。
過去のZAZEN BOYSには、ベース日向さんの攻撃的ヤンキーベースが唯一無二の存在感を示していた時代があり、メンバーが変わった後も(ベースに限らず)ZAZEN BOYSのサウンドにその攻撃的なテイストが求められがちであったように思う。
しかし、今回は新曲にて、その攻撃的なテイスト以外の方向で、そして現メンバーでしか為し得ない演奏にて、既存曲より強い支持を得ることができていた。この新曲への支持は「すとーりーず」のレコ発ツアー中から徐々に発生していた現象かと思われるけれども、ZAZEN BOYSにとって、この出来事は大きな事件だ。
サイボーグのオバケ
特に「サイボーグのオバケ」の突き抜けかたが素晴らしかった。ツアー後半での「サイボーグのオバケ」での向井さんとカシオマンのやり取りが面白いとの話は聞いていたのだけれど、実際のやり取りは想像以上に苛烈だった。
向井さんが「パンツ」という言葉をカシオマンに演奏させる、という一幕がこの「サイボーグのオバケ」での演奏途中で挟まってくるのだけれど、半年前と比べても明らかにサディスティックに無理難題を振る上、カシオマンから思ってたのと違う演奏が出てくると厳しく突っ込む向井さん。最早「躾」を超えて「虐待」の域である。ステージに鬼がいた。
相手のカシオマンについては、最近はステージ上の動きが煮詰まってきていて「ここで二小節ロボットダンスをする」なんて譜面があるのかな、とも想像してしまうほど「意外性な動き」に意外性が無くなってきているように思えていたのだけれど、そこへ向井さんが無茶振りを詰め込むことにより、遂にカシオマンが爆発する。
その後に、ギターソロを振られた時のカシオマンの動きったら、もう人間の動きとは思えなかった。決して広いとは言えないスペースで、ネックを左右にぶん回しながら変態的なタイミングで音を掻き鳴らしていく。最早人のセンスとは思えない動きなのだけれど、単なるノイズではなくギターソロとしてコントロールし、成立させることができるのは確かに人間の技だ。鬼気迫るとはこのことだ。
久々にカシオマンが向井さんに支配されずに輝いているところを見ることができたように思えた。この日のカシオマンのハイライトは、「COLD BEAT」で歌を振られた時ではなく(COLD BEATではチャルメラのメロディーで歌をカシオマンや吉田一郎さんや観客に振るネタが追加されていた)、この感情が爆発したかのようなギターソロだった。
完成度を高めた新曲
後、新曲では「サンドペーパーざらざら」の切り込み具合が良い。踊らざるを得ないリズムのグルーヴ感が観客の目を覚まさせる必要がある一曲目にぴったりだ。二曲目の「泥沼」も、「ずぼ」「ずぼーっと」と人力スクラッチで場を笑わせ、その後の鉄板曲で盛り上がる下地を上手く作ることができていた。
また、「暗黒屋」では動と静のコントラストが顕著になっており、原曲ではあまりイメージの無かったドラムの攻めっぷりが圧巻だった。そこからの「サイボーグのオバケ」での盛り上がりは前述の通りで、新曲群に隙が無くなっているように感じられた。
そして原曲から何枚も皮がむけた「すとーりーず」のスケール感。前の梅田クラブクアトロの時にはその後に演奏された「破裂音の朝」にインパクトが負けたように思っていたけれど、この日の「すとーりーず」には場の空気を一新して支配する雰囲気があった。その前の「COLD BEAT」が面白かったため、そのギャップで強いインパクトを感じたのかもしれないが。
その「すとーりーず」から「破裂音の朝」への流れがまた美しい。レコ発ツアー後に詰まった部分を上手く凝縮した、実に満足度の高いセットだった。新曲の成熟度を踏まえつつ上手くフィットさせたセットだったと思う。
セットリスト
- サンドペーパーざらざら
- 泥沼
- Honnoji
- Himitsu Girl's Top Secret
- Riff Man
- 暗黒屋
- サイボーグのオバケ
- はあとぶれいく
- COLD BEAT
- すとーりーず
- 破裂音の朝
後攻は「血に飢えた」ホストのbloodthirsty butchers。
bloodthirsty butchers
ZAZEN BOYSが終わっても前方はほぼ人が動かない。こんなに観客が動かない対バンは最近では経験したことが無い。やはりこのライブの観客は、どちらのバンドも目当てなのだろう。
後攻のbutchersもセットリストが上手く、新旧問わず熱くなる曲を並べてきた。瞬間的に爆発するヒット曲を並べたのではなく、全体を通して徐々に場を熱することができる曲を並べてきた印象。
「ブルースと散文」から轟音と熱唱で観客を一気に掴む。これがbutchersだと高らかに宣言する。「ソレダケ」でその熱量を全力まで沸騰させて観客に浴びせ掛ける。そこから「ファウスト」で一気に盛り上げる。実に自然な着火からの猛火だった。
ベース射守矢さんとドラム小松さんの安定感がこの日は特に目立った。吉村さんと田渕さんがギターをどれだけ暴れさせても、その轟音の中で着地点をしっかり用意するリズム隊。吉村さんが体勢を崩してもしっかりとリズムで救うドラム。このリズム隊の安定感があってこそ、ギターがリミッター無く轟音を掻き鳴らし、熱量を高めることができるのだ、とbutchersの構造を改めて実感した。
演奏するその姿
butchersを観るのは小さい箱が良い。メンバーの動きを一度に視野に入れやすいからだ。
吉村さんが左足を曲げながら右足にギターを置き軽く反りながら弾くのもいいし、田渕さんが全身反り返りながらギターを弾くのもいいし、射守矢さんが足を開いてベースを平行にして弾くのもいいし、小松さんが限界ギリギリで白目を剥きながらこれでもかとの手数でドラムを叩くのもいい。
これらが全て同時に行われるため、観客も視線が忙しくなる。butchersのライブでは、隣の人と全く違う方向を見ていて視線が交錯することが珍しくない。
メンバー全員が演奏する姿自体が絵になる。何十年とその楽器をステージ上で演奏し、無駄なく洗練された結果としての演奏する姿の美しさよ。これもbutchersがライブバンドと呼ばれる理由の一つと言えるだろう。
新曲
過去のライブでも演奏されている新曲「コリないメンメン」の演奏の暴れっぷりが圧巻だった。butchersの恐ろしいところは、いくら演奏が暴れても、ポイントポイントですっと息を合わせて「止まる」ところで、この新曲では(新曲なのに)特にそのメリハリが決まっており、その統制に対して寒気すらした。演奏はあんなに熱いのに。
butchers、今回の新曲は相当に演奏を練っているように感じられた。この勢いだと、次の新譜でbutchers第二章のピークが来るかもしれない。そう思える程、次の新譜へ懸ける想いを酌み取ることができた。
アンコール
アンコールは二回。一回目のアンコール「curve」「プールサイド」「フランジングサン」の流れはライブを締める流れとして美しく、このまま終わるかと思ったのだけれど、ダブルアンコールまで応えてくれた。想定外のアンコールまで応えてくれるのは本当に嬉しい。更にダブルアンコールでは最初にサプライズ(後述)もあり。本当にサービス精神旺盛な人達だ。
観客と馴れ合うわけではないけれども、感謝の心を忘れない。そういった姿勢は、自分達の音楽がより多くの人に届くように最大限努力しているように感じられるし、聴いている人に対してもより理解して貰えるように努力しているように感じられる。
格好良いなあ。単純に、自分の音楽を広めるために最大限の努力をしている姿が格好良い。これは惚れる。
セットリスト
- ブルースと散文
- ソレダケ
- ファウスト
- 4月
- story
- 襟が揺れてる
- コリないメンメン(新曲)
- デストロイヤー(新曲)
- 燃える、想い
〜アンコール〜
- curve
- プールサイド
- フランジングサン
〜アンコール〜
- さよなら文鳥
- 時は終わる
EX-ナンバーガール的なサプライズ
アンコールで田渕さんがキリンラガーを持って登場。楽屋で向井君からもらったビールです、ZAZENビールです、乾杯!とのMCに観客大興奮。
ダブルアンコールで向井さん登場、吉村さんのマイクを借りて「2001年の大ヒット曲、さよなら文鳥」の紹介ナレーションをする。観客大熱狂。
二つ目、吉村さんのマイクを借りてというところが興奮ポイント。butchersのもう一本のマイクは田渕さんの前にあって、つまりステージ上で向井さんと田渕さんがマイクの前に並ぶという奇跡の一時があって、さすがにこの光景には変な叫びが出た。これだけで、この日ライブに足を運んだかいがあったというものだ。
「さよなら文鳥」を紹介する向井さんを見ながら、極東最前線、ああ、ここにeastern youthがいたら完璧だったなあ、と感じたけれどそれは高望みと言うものか。しかし、eastern youthも勿論現役であり、三バンドが集まる可能性だって無いわけではない。思い返せば、このbutchersとZAZENの対バン自体、考えすら過ぎらないクラスの高望みだと思っていたはずだ。
皆十年二十年とずっと音楽活動を続けてくれていてライブを演ってくれている、というのは本当にありがたいし、そんな好きなバンドがこんな形で会する可能性があるからこそ、ライブに行くという行為は止められないんだよなあ、と改めて感じた一日だった。