向井秀徳アコースティック&エレクトリック@京都磔磔(2013.05.24)

京都磔磔で行われた向井秀徳 アコースティック&エレクトリックのライブに行ってきた。

向井秀徳 アコースティック&エレクトリック」は向井秀徳さんがソロでライブ活動する時の名義であり、アコースティックギターとエレクトリックギターを弾きながら歌うワンマンスタイルでのライブとなっている。NUMBER GIRL時代の楽曲などZAZEN BOYSでは演奏が難しい曲が演奏されるため、OMOIDEがIN MY HEADな人々にとっては待ちに待ったライブだ。

開場から少々遅れて到着したが、場内を一目見て面食らう。丸椅子が窮屈に並べられた客席、ステージ上には「向井秀徳 アコースティック&エレクトリック」との大きな看板が掲げられ、その前には一人分のマイクとギター。そして延々ループして流れ続けるヴァン・ヘイレンの「JUMP」。

肩を寄せ合って丸椅子に座っている観客からの熱気がなければ、地元のイベント常連のセミプロミュージシャンの晴れ舞台(年に一度のお楽しみ、観客も常連)のようにも感じられる。ひたすら一曲ループするヴァン・ヘイレンからは、たまたまイベント会場にあったロックCDをとりあえず流しておこう、といった場繋ぎ感すらあり、開演までの場にはやや滑稽なムードが漂っていた。

しかしながら、向井さんがステージに上がり一声発生したところで、そういった弛緩した雰囲気は一掃された。割れそうな程に溢れ出る向井さんの声量を、磔磔が壁や天井が程よく響かせて保たせ、会場一面に浸透させる。さすがは磔磔だ。会場と演奏の相性が抜群に良い。漠然と相性の良さは想像していたものの、実際にここまで上手く混ざり合うとは思わなかった。素晴らしい体験だった。

ライブのセットリストは必要なら以下リンク先を参照。未音源化曲は正式な曲名が分からないのでこのままで。
https://twitter.com/MetaParadox/status/337909555470168064

第一部

二部構成だったのだけれど、第一部は比較的新しい曲が中心だった。

Sakana」「Neko Odori」「Karasu」(いずれも正式な表記は不明)といったアコエレでしか演奏されない動物シリーズも前半で演奏された。道路に寝そべっている猫にマタタビをチラつかせて踊らせたり、家の前にカラスが死んでいたので保健所へ連絡したり、非日常だけれども脳裏に情景が浮びやすく、どこかあっけなく、なぜか切なくなる楽曲の数々。短編集「厚岸のおかず」にも通ずるこれらの世界観からは、ZAZEN BOYSとはまた違った向井さんの魅力を感じられた。

第一部の終盤では長淵剛さんの「YOU CHANGED YOUR MIND」をカバー。

こちらは「アシッド長淵」と呼んでいる、向井さんお気に入りの長淵楽曲群の一曲。なぜ「アシッド長淵」なのかは、今後のツアーで演奏された際でのMCでご確認されたし。歌詞を読めば推し量れるかもしれない。

そして終盤で燃えたのが、やはり「OMOIDE IN MY HEAD」。アコースティックギターでの演奏で、当然原曲より静かなアレンジなのだけれど、「現実と残像は くりかえし 気が続くとそこに」からの「ポケットに〜」からギターを掻き鳴らし熱く盛り上がっていく展開、ギターに思い出が掘り起こされていく感覚がたまらん。これはもうここに何文字書いても再現できるものではないので、生で聴くべし。

第二部

途中に十五分程休憩を挟んで、第二部開始。

第二部は比較的古い曲、NUMBER GIRL時代の楽曲が中心。ZAZEN BOYS初期の楽曲もちらほらと演奏された。ZAZEN BOYSのメンバー交代前の曲は、今では演奏されないものが多いので、アコエレで演奏されるのは嬉しいし、刺激的だ。

しかし、やはり旧い感情を直撃するのはNUMBER GIRLの楽曲だ。三曲目の「SENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKE」のイントロではグッと込み上がった。NUMBER GIRL時代の曲が演奏されると、脳内で別パートが勝手に演奏されてしまって悶えてしまう。この曲なんて中盤の田渕さんのリフが一番沁みるのだけれど……。

だが、あの頃に一緒に鳴っていた音が無く、ただ独りで演奏しているからこそ、思い出が増幅されて感情が刺激されてしまうのは確かだ。もしサポートメンバーが後ろで演奏していたら、このような感情の高ぶりはなかっただろう。音が無いのが自然であり、自然だから良いのだ。

他、NUMBER GIRL楽曲群での不意打ちは「転校生」。楽曲自体久々に聴いたのだけれど、ソロだと「君は転校生のような紅い顔をして〜」の、初期NUMBER GIRL特有の優しいメロディラインが強調されて悶絶した。原曲と違い余裕のある演奏だったのでまるでNUMBER GIRLのカバーをしているようにも感じたけれども、その歌声はとても優しく、ドラマチックに胸に響いた。

「The Days Of NEKOMACHI」はZAZEN BOYSのライブでもかなり大胆なアレンジが施されていたけれど、アコエレでの演奏ではさらにそのアレンジが加速して訳の分からんことに。ZAZEN BOYSでのSUGAR MANのライブ演奏に近い、ストップ&ダッシュの連続。やたらテクニカルにタッピングを繰り返すので、実は開演前のヴァン・ヘイレンはこの伏線だったのか!と動揺。

向井さんソロの定番であり切り札である「自問自答」で綺麗に第二部が終了。

アンコール

アンコールでは舞台「サッド・ソング・フォー・アグリー・ドーター」のサントラより「ああ正当防衛」を演奏。余興の雰囲気を作ってから、YUIの「CHE.R.RY」へ。アコエレでは定番ネタになりつつある「CHE.R.RY」、生で聴いたのは初めてだったけれども、バイブスだけで楽しそうに全力で演奏されていて羨望すら覚えた。酒飲んであのテンションでカラオケで歌いたいなあ。

ラストは向井さんがスタンダップしての「IGGY POP FAN CLUB」で締め。一人エレキギターでのIGGY POP FAN CLUBは最高にロックだった。

延々座りっぱなしで尻が痛くなったけれども、終演までそのことに気付かなかった位にステージに夢中にさせられたライブだった。

この日は過去の思い出に頭が埋め尽くされてしまったけれども、ソロ用のアレンジを味わう楽しみ方もできたはずで、次回はそういう楽しみ方もしたいところ。舞台上の向井さんのように都度都度酒を補給しながら、酩酊状態で浸るのもきっと楽しいに違いない。