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舞城王太郎/ビッチマグネット

ビッチマグネット

ビッチマグネット

普通の普通じゃない舞城王太郎小説。

舞城王太郎の最新刊。今作は文学(舞城的には「文楽」か)サイドの小説。

舞城王太郎の小説って大抵ファンタジー展開が混じるので、あまり人には勧め辛いことが残念なんだけれど、今作は至って地に足がついた物語展開なので、やっと普通に人に勧められる小説が出てきたなあと嬉しくなった。
もちろん舞城王太郎といえば、ミステリー作品での超絶推理展開が大きな特徴の一つだし、圧倒されてしまう文圧に絡まってくる暴力的描写・グロテスクな描写も特徴だし、前述のファンタジー展開だって魅力の一つだ。けれどもそういったぶっ飛んだ特徴が初読の人への壁を作ってしまっているのも事実で、だから本作のように壁が低い小説が出てきたことが、素直に嬉しい。

今まで、舞城王太郎を勧めるとなると、ミステリ好きの人でないなら「ピコーン!」か「スクールアタック・シンドローム」だもんなあ。しかもどちらも短編で、さらにどちらも暴力的描写はバンバン出てくるので、結局万人に勧め辛い。「好き好き大好き超愛してる。」は途中に挟まれるSF小説に解説(「柿緒」パートが本筋でSF小説はそのパートの主人公の作品という位置付け)があれば、まだ分かり易いんだけれども。
これらは例えば、初対面の女性に勧められるような小説ではないのだ。しかし今作は胸を張って勧められる。その女性へさえも。


家族がテーマの小説、家族は父母姉弟構成で、主人公は姉。姉と弟の関係を中心とした、姉の成長物語なんだけれども、前述の通り今作は現実的な物語展開で、暴力的描写もほぼない。そのような中で、繊細かつ論理的に展開されていく心理描写がひたすら冴える。さすが舞城先生。やっぱり舞城先生は女性なんだろうなあ、と改めて考えてしまう程細やかに女性の心理を描く。挙げ句の最後には「あれっ?私小説?」とも思わせる描写が出てきて、舞城女性説は確実か!とも思うけれども、舞城さんが私小説を匂わせる描写をするのは毎度のことだからなあ。
心理描写に合わせて名文が惜しみなく繰り出されるのでニヤニヤして読んでしまう。「くだらないパターンってものにちょっとは抗えよ。工夫しろ!自分を見つめて考え直せ!本を読め!何が陳腐で薄っぺらいのか、物語を読まない人間には判らない。」など、最初から絶好調だ。素晴らしい。皆心に刻むべきだ。そんな「くだらないパターン」を尽くぶっ潰してきた舞城王太郎が書くと説得力が段違いだ。

「成長物語」ということで、物語が進むことに主人公の考え方も変化していくところも面白くって、主人公がその時々のスタンスで物事を考えている描写に唸らされる。成長に従って主人公の考え方が少しずつ変わっていくんだけれども、その時々のスタンスにおいてちゃんと深く考えている描写があることが面白い。
揺るがない信念を持つ主人公というのは良くあるし、主人公の成長物語となっている場合は、過去の主人公の考え方に明らかな過ちがあることが多い。
けれども、現実にはそんな分かり易い心の動きはなくて、成長する度に考え方は少しずつ変わるけれども、その考え方が正しい方向に向かっているのかも客観的に見て良く分からないし、短い間隔であれば変わっているのかどうかも分からないし、根本的な部分が何かの影響によってコロっと変わるモノでもない。
この小説では、そういった人間の現実を描写できているので、主人公をリアルに感じる事ができる。この小説での大きなテーマの一つが「人間の本質」なんだけれども、堅苦しい雰囲気なくそのテーマが描写されていることが素晴らしいと思う。

好き好き大好き超愛してる。」の延長線上にある作品との印象。文庫本になったら是非布教して回りたい。