映画「人狼ゲーム」シリーズのガイド(一作目~五作目)

高校生が密室に閉じ込められて命懸けの人狼ゲームを強いられる映画「人狼ゲーム」シリーズがNetflixにあったので五作目まで観た。一昔前によくwebで長期人狼を遊んでいたことがあったのだけど、知らない人とリアルタイムで人狼ゲームをやるこの映画のシチュエーションはそのweb人狼にちょっと似ていそうだったので前から興味はあった。

この映画シリーズは歴代キャストが、桜庭ななみ藤井美菜、土屋太鳳、森川葵加藤諒高月彩良冨手麻妙知名度が高く、人狼ゲームブームに乗っかっただけの作品では一見なさそうだけれども、演出や脚本に首をひねる部分が多いので観るのには気力が要る。人狼ゲームのプレイ映画として細かいことは気にせず推理や議論を楽しむとしても忍耐が必要な場合がある。だけどそんな悪い点も踏まえてハードルを下げた上で、この映画シリーズを観ていこう! というガイド。

人狼ゲームは知っているけど映画はまだ観ていない人に興味を持ってもらえるように書いているけど、あらすじや多少のネタバレは含むので注意。

映画「人狼ゲーム」の特徴

吊られたり襲撃されると死ぬ

人狼ゲーム」は自身の生死を問わず自陣営の勝利を目指すゲームだけど、映画では吊られたり襲撃されることは「リアルで死ぬ」ことを意味する。死んだら陣営勝利なんて関係ない。なので参加者は死なないことを一番の目標とすることになるし、生存者はできるだけ死人を減らすように判断する。

なので自陣営の勝利のためにあえて犠牲になったり、吊る手数が足りるから一日様子見する、といった戦術が基本的には使えない。手数を計算し出すと、人でなしだと罵られる。

音が都合良く聞こえたり聞こえなかったりする

音の演出はシリーズ通して本当に雑。夜の襲撃時に鳴らした小さな物音が人間側の手掛かりになったりする一方で、大声で怒鳴りあっても人間は誰も聞こえていなかったりする。防音どうなってんのこれ?

夜は全員部屋の窓開けておけば叫び声聞こえるでしょ、と思うけれどあの舞台の夜はきっといくら叫んでも誰の耳にも届かない時空にあるのだろう。これは映画のお約束として見逃すしかない。

各シリーズについて

人狼ゲーム

  • 構成:占村村村村村村村狼狼

第一作。第一作なのに駄作。いや第一作だから駄作になる余地があったのかもしれない。「映画『人狼ゲーム』のチュートリアル」として以外は無理して観る必要がない作品。シリーズを最初から通しで観ようとしてこの作品にチャレンジし、駄作ぶりにシリーズ自体を見限る人が多数出ている気がするのだけれど、面白くないと感じたなら無理して真面目に観る必要はない。ただし映画の舞台のチュートリアルとしては多少意味があるので、一応ラストだけ確認して次に進もう。シリーズの他の作品はもう少しましなので。

構成に役職が少ないので推理や議論ベースの人間力勝負になるはずなのだけれど、主人公がそもそもゲームに向き合わず、遠回しに説教して議論に水を差すのが興醒めだし、ストーリーの都合なのか突然推理力を発揮し出すのも鼻につく。ヒロインにヘイト稼がれてもちょっと……。演出もゲーム以外の部分がフォーカスされることが多くて退屈する。ゲームに徹さない人が多く、人狼ゲームのプレイ映画としても中途半端。ただ藤井美菜の演技が素晴らしい点は特筆しておきたい。

  • お薦め度:★☆☆☆☆
  • 桜庭みなみが気の毒度:★★★★★

人狼ゲーム ビーストサイド

  • 構成:占狩共共村村村村狼狼

第二作。土屋太鳳、森川葵加藤諒とキャストのネームバリューはシリーズ随一。土屋太鳳と森川葵の掛け合いが沢山楽しめるし、全体的にキャストの演技レベルが高く退屈しない。演技力は正義。タイトル通りヒロインの土屋太鳳が人狼側なのだけれど、夜に人狼として暗躍するだけでなく、昼も裸足になったり自作のパンクソングを口ずさんだり、頭のネジがぶっ飛んでいる役を演じていて笑える。鈴木先生の小川蘇美の後にこんないかれた役演ってたのか土屋太鳳!

しかしながら人狼ゲームのプレイ映画としては残念なことに微妙。第一作からはかなり向上していて、冗長な演出はカットされているし、ゲームの戦術レベルもかなり上がっている。なのに、なのに中盤であっさりゲーム要素を投げ捨ててしまう脚本が! 本当に! 酷い! 真面目にやれ(ゲームを)! 人狼視点で映画が進むので、何か不思議なことが起きても視聴者にとっては驚きがなく「ああ都合の良いことが起こってるな」と冷ややかに眺めてしまえるのが致命的。

途中で醒めてきたら、森川葵を応援しながら観るのがお薦め。仲間に恵まれないのに孤軍奮闘する森川葵! がんばって! かわいい! 負けないで! いい推理! 滲み出てるキュート!

人狼ゲーム クレイジーフォックス

  • 構成:占霊狩村村村村村狼狼狼狐

強くお薦めできる作品が三作目でやっと出てきた。タイトル通りヒロインが狐に配役される。第三勢力がいる複雑な構成で、意外な序盤になるけれど、理解が追いつける程度にゲームが転がっていくのが楽しい。ヒロインにはゲームに勝つ以外の信念があるけれど、それが人狼ゲームの戦術とバランスが取れている点がこれまでの作品と大きく異なる点。ヒロインのトリッキーなプレイングが狐の役職と上手くマッチしている。

これまでのシリーズから監督が変わり「人狼ゲームを題材にした映画作品」から「人狼ゲームを楽しむ娯楽映画」にシフトされたことが大きいように思える。人狼ゲームのカタルシスも感じ取れるストーリーになっていて、これは真剣な人狼プレイヤーが製作した映画だなと感じる。おーい!!! 生き残ってるお前の判断に! 陣営の勝利が懸かってんのに! まだ必死に訴えてる人がいるのに! なに考えるの止めてんだよ! 一人で納得すんな! って墓場から呻くのは人狼ゲームあるある。これは分かるわ。

  • お薦め度:★★★★☆
  • ヒロインの透明感度:★★★★★

人狼ゲーム プリズン・ブレイク

  • 構成:占霊狩共共村村村狂狼狼狼

第四作にして狂人が始めて役職に入った。囁き狂人ではない狂人はこの映画のルールでは立ち回りが難しい。とりあえず役職を騙っておくスタンダードな狂人プレイだと生き残りづらいので。このルールだと狂人はどうプレイするのかな? と想像しながら観るのがお薦め。

村人側と人狼側のシンプルな二大対立構成で、今作では人狼側の情報が明かされないので推理も楽しめる。サイドストーリーがゲーム要素を阻害していたり、複数の男子がヘイトをガンガン稼いできたりと、ちょっと残念な要素が目に付く作品ではあるけれど、頑張って最終日まで観る価値はある。映画「人狼ゲーム」シリーズらしい展開が最後に待っている。

  • お薦め度:★★★☆☆
  • 素晴らしいさすがに勝てない度:★★★★★

人狼ゲーム ラヴァーズ

  • 構成:占霊狩村村村村村狼狼Q

タイトルの通り第三勢力として恋人陣営が登場する第五作。キューピッドは実際に入れて遊んで見るとバランスブレイカーになりがちだけど、本作ではさすがに陣営崩壊みたいな割り振りにはならない。同じく三つ巴戦になった第三作に近いテイストでお薦めできる作品。これまでの五作の中では一番面白い。この作品を観ていなかったらこの記事自体を書こうと思うこともなかった。

全員二戦目だと明かされてのゲームなので、戦略・戦術がスムーズに展開されていく。意図も都度簡潔に明かされて、レベルの上がった人狼が無理なく楽しめる親切仕様。もしシリーズをずっと追っかけていたら視聴者はこれで五戦目になるのだから、そりゃ多少は高度なゲームが観たくなるというもの。これは良い脚本の配慮。

あと「『実は』慣れた人が集まっていた人狼あるある」な展開が多いのも良い。人狼ゲームが、自分自身がベストな戦術を披露すれば必ず勝てるものではないことを再認識できる。そして俳優の演技も良い。このシリーズはどうしてもオラつく男子の影が薄くなるけど、池田純矢が良い味出している。ヒロイン古畑星夏の温度感と色気も良い。

かなり褒めたけど、もう一つ。ラストの展開が素晴らしい。ゲーム部分がしっかりして視聴者を引き込めるから、それ以外の演出も生きてくる。

  • お薦め度:★★★★★
  • 耳を疑って巻き戻す度:★★★★★

2017年の邦楽10枚

2017年にリリースされた邦楽のアルバムから最高の10枚を選ぶ。

選出基準

  • 邦楽のみ。国内で(も)活動するアーティストに絞る。
  • 1アーティスト1枚
  • コンピレーション盤は最大1枚。

サニーデイ・サービスPopcorn Ballads(完全版)

Popcorn Ballads

Popcorn Ballads

配信限定でリリースされていたアルバム「Popcorn Ballads」が年末に完全版としてリリースされた。

先に配信されていたものから曲順も代わり、新曲も所々に入ってきていて、この完全版を聴いてもシャッフルプレイをしているかのよう。「アルバムとしての統一感」は感じられないのだけれど、2017年の活動記録としての「アルバム」感は強く感じられる。「2017年」とのタグが付いた楽曲一覧のような、時間軸だけでカテゴライズされた一覧のような感触。

曽我部恵一らしい、サニーデイ・サービスらしくない、振り幅のとても大きい作品群で、CD二枚組のボリュームでも飽きることがない。楽しい。

PUNPEE/MODERN TIMES

MODERN TIMES

MODERN TIMES

PUNPEEがやっと普通に世間に流通するアルバムをリリースしてくれた。「Music On The Sunday」を買い逃しているので、ありがてえありがてえと拝聴させて頂くアルバムだった。

現代における音楽の在り方を意識し続けているアーティストの一人で、アルバム発売前のライブで「Renaissance」が大合唱になっていることからも、一般的なCD屋に流通する形のアルバムリリースってこのアーティストにとっては必須ではないんだろうなと思う。だからこのアルバムが「これまでの活動の集大成ベスト」みたいなものにならなかったのはとてもPUNPEEらしいと思った。アルバムをリリースした後もレア感は損なわれず、もっと色々な曲を聴かせて欲しいと思うばかり。

Eccy/Narrative Sound Approach

NARRATIVE SOUND APPROACH

NARRATIVE SOUND APPROACH

Eccy渾身の、ベストメンバーアルバム。Shing02あるぱちかぶと、泉まくら、Candle、Meiso、どつ、全てのボーカル曲が掛け替えのない一曲になっていて、こんなに美しいアルバムがあるかよと思ってしまう位に大切なアルバムとなっている。

あるぱちかぶとの声をまた聴くことができて、それがEccyとの共作で、久々に聴いた声もストーリーもあの時から変わっていなくて、そのことにただ感謝したい。

電気グルーヴ/TROPICAL LOVE

TROPICAL LOVE

TROPICAL LOVE

アルバムを聴いてまず「この楽曲達をライブで聴きたい」と思わされた。まんまと。そしてワンマンライブに行った今聴くと、あの時は楽しかったなあと意識を遠くに飛ばされる。

音楽を聴いている時に、その音楽を再生している世界に留まらせずに、その先のどこかを想像させられてしまうアルバムというのはなかなかえげつない。25周年として自分達の活動をアーカイブした後に、これが出てくるんだもんなあ。

MONDO GROSSO/何度でも新しく生まれる

何度でも新しく生まれる(DVD付)

何度でも新しく生まれる(DVD付)

MONDO GROSSO」で在り続けながら2017年に鳴っても新鮮に聞こえる、そんなことってあるんだな。MONDO GROSSOが未来を先取りしていたというよりは、単純に良い音楽はいつの時代でも良いということだと思う。偉大。

Cornelius/Mellow Wave

Mellow Waves

Mellow Waves

SENSUOUSから11年。長かった。繊細で緻密で、とてもCorneliusらしいこだわりがあるアルバム。一音一音が静かに心の中に刺さっていく、その感覚が唯一。

吉田ヨウヘイgroup/ar

ar

ar

こんなに自然にポップにテクニカルな音楽をやり続けている、そのことに恐れと尊敬を感じる。活動休止になったときは、そりゃこのバンドを維持するのは難しいだろうなあと思ったんだけど、一年も経たずに活動再開し、このクオリティで戻ってきたのには驚いた。

より繊細に、より複雑に、より心地良く、より深く。気が付くと、とんでもなく遠くに連れて行かれている作品群。下品でも派手にぶちかました人が目立ってしまうこのご時世において、変わらずにハイクオリティで在り続けていて、丁寧にアップデートされ続けていることの尊さを感じる。

King Gnu/Tokyo Rendez-Vous

Tokyo Rendez-Vous

Tokyo Rendez-Vous

今年初めて聴いたアーティストで一番良かった。2017年ともなるとガレージ・ロック・バンドもこんなに洗練されるのか。格好良い。

集団行動/集団行動

集団行動

集団行動

相対性理論分解からここまで、長い道のりだった。やっとここまで辿り着いた。

真部脩一と西浦謙助が中心となったバンドが結成されたことのありがたさ。ミニマムな体制であるおかげで、真部脩一のセンスがただただ際立つ楽曲群。シンプルであるが故に聴き込みたくなるし、聴き込むことでメロディと歌詞の景色が変わってきて、飽きることがない。

赤い公園/熱唱サマー

熱唱サマー(初回限定盤)(DVD付)

熱唱サマー(初回限定盤)(DVD付)

赤い公園の顔であるボーカルの佐藤千明が参加する最後のアルバム。現体制の赤い公園を終了するのに相応しい感動があるアルバムだった。

バンドとしての完成度の高さと溢れ出す情熱。ファーストアルバムでしか生み出せない音楽があるように、ラストアルバムでしか生み出せない音楽もあって、このアルバムはまさしくその後者だった。メンバー全員のベストプレイが詰まっていて、テクニックとポップネスが高いレベルで昇華されている奇跡のようなアルバム。とにかく全力。きっとこれが青春の終わり。眩しい。

過去の10枚

2016年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2016/12/25/090000

2015年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2016/01/02/184449

2014年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2014/12/31/132004

2013年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20131231/1388501652

2012年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20130115/1358261719

2011年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20120118/1326889267

2010年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20110411/1302534280

相対性理論 presents『証明II』@Zepp Osaka Bayside (2017.05.06)

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相対性理論の自主企画ライブ『証明II』に行ってきた。「天声ジングル」発売からは関西では初めてとなる貴重なライブ。個人的には武道館以来のライブだった。

metaparadox.hatenablog.com

ツインドラム体制になった相対性理論のライブはポストロックの要素が強くなってきている。今の相対性理論やくしまるえつこをアイコンとして据える「やくしまるえつこバンド」ではあるんだけど、ボーカルを軸としたポップな演奏になるのではなくて、やくしまるえつこ名義の曲を演奏する場合でもちゃんと相対性理論バンドとして演奏するためのアレンジが施されている。現在のライブの演奏曲は、相対性理論の新旧楽曲とやくしまるえつこ名義の楽曲の中から、今の相対性理論に最もマッチする楽曲を選んでいるのかと思うし、だからこそ万全のバンドセットで臨めるワンマンライブは楽しみだった。

今回のセットリストは、「リターンしました」とのMCで演奏が始まった「キッズ・ノーリターン」、井の頭公園のやくしまるえつこアナウンスから始まった「弁天様はスピリチュア」、「(dimtaktでフロアの両端を指しながら)ここから、ここまで、ユニバーサル・やくしまる・ジャパン」とのMCから突入した「ロンリープラネット」、そしてアンコール最終曲の「わたしは人類」を軸としながら、その間に新譜曲+αを散りばめた構成。

ロンリープラネット」のサウンドスケープはやっぱり圧巻だったし、「弁天様はスピリチュア」の「モーニングコールして起こして」でのカタルシスも音源の比ではなくて、音響を十分に生かせる状況での相対性理論の演奏はやっぱり唯一無二だし、そこでしか感じることができないものだなあと改めて感じた。

そして一番驚いたし感動したのはアンコールラストの「わたしは人類」だった。

本編で「天声ジングル」を一周させ、世界を終わらせてからアンコールで「わたしは人類」を演奏する構成にもまず痺れたんだけど、「わたしは人類」の中盤のノイズパートを引き延ばして会場をノイズの海に飲み込ませる展開で一気に引き込まれた。

「止めて 止めて 進化を止めて」と繰り返すやくしまるさんの声に呼応するように、永井さんの鳴らすギターノイズが会場を覆う。リズムが追えないノイズの洪水の中で、かなり薄い音量で吉田さんのベースとitokenさん・山口さんがドラムを演奏し続けていて、やくしまるさんがそれに徐々に合わせながらボイスを落としていく、ノイズの中からポツリポツリと声だけが聴こえてくるというカオス。そこから少しずつベースとドラムを浮かび上がらせていくことでリズムの秩序が保たれていき、カオスからまた人類が生まれていく物語に繋がっていく、そんな構成の演奏に感動した。現体制の相対性理論の真骨頂だった。

今回のやくしまるさんの衣装であるチャイナドレスは「弁天様」だったのではって話があって、なるほど神様として今回は人類の進化と世界の輪廻を証明したんだなと、なんだか納得した一日だった。

素晴らしいライブだったんだけど、ライブ演奏がずっと頭の中をぐるぐるしてしまうのが困りもの。相対性理論、ライブ映像をリリースして欲しいなあ。

セットリスト

~アンコール~