2016年の邦楽10枚

2016年にリリースされた邦楽のアルバムから最高の10枚を選ぶ。

今年聴いた音楽の範囲はかなりApple Musicに引きずられたんだけど、Apple Musicに登録されていない音楽にも良作はもちろんあって。来年はそこまで掘れるか心配だ。

選出基準

  • 邦楽のみ。国内で(も)活動するアーティストに絞る。
  • 1アーティスト1枚
  • コンピレーション盤は最大1枚。

宇多田ヒカル/Fantôme

Fantôme

Fantôme

2016年は宇多田ヒカルが本格的に活動再開した年として刻まれるだろう。

本作、煌びやかさや派手さは無くなり円熟感が伺えたものの、歌詞の繊細さと獰猛さは健在。リスナーに寄り添う音楽になった印象がある一方で、誰にでも良い顔を見せるアルバムでもなくて、とても人間らしいアルバムだった。

「歌詞に共感した」「歌詞に救わた」なんてナイーブに感じること自体がなんだか恥ずかしいことになりつつある昨今で、歌詞の強度を保ち続けている存在なんだよなあ。日本語の音楽の良さを思い出すことができる貴重なアーティストとアルバム。


宇多田ヒカル「花束を君に」「真夏の通り雨」SPOT

相対性理論/天声ジングル

天声ジングル

天声ジングル

前作を上回るサウンドスケープに圧倒された。

音数の多さを内包できる音像の大きさにまず驚く。無駄な雑味がそぎ落とされた「新しい相対性理論」がようやくここに完成した。ただその一方で、リスニング環境を選ぶ作品になってしまった。安いイヤフォンで聴いてしまうと大量の音が分解できなくて辛く、なので「好事家のための音楽」とカテゴライズされてしまいかねない危うさはある。

今作は世界創造をループする構成になっていて、「アルバム作品」としての完成度も高い。相対性理論の過去作は、バンドのポテンシャルの高さをただぶん回すようなものが多かったけれど、今作はアルバムとしての完成度まできっちり高めてきた。

そういったきっちりさについての善し悪しはリスナー次第ではあるけれど、単純に作品として優れたものになったことは確実。


相対性理論「天声ジングル」予告篇(2016.4.27 on sale)

D.A.N./D.A.N.

D.A.N.

D.A.N.

「何この音楽?」と何度も聴き返してしまった、新しい肌感覚のバンド。

黒くギラつくグルーヴ感がエグい。リズムが太い軸になっているのに、音の温度が異様に低くて寒気がする。耳辺りはとても新しいのに、アルバム通して一本貫かれているものがあって、ファーストアルバムなのに脆いところがない。突然変異にも程がある、ヤバいバンドが唐突に現れたことに驚き。


D.A.N. - Native Dancer (Official Video)

Moe and ghosts × 空間現代/RAP PHENOMENON

RAP PHENOMENON

RAP PHENOMENON

ヒップホップユニット「Moe and ghosts」と変拍子バンド「空間現代」のコラボアルバム。

「バンドサウンドをベースとした変拍子ヒップホップ(女声)」という訳の分からないことになっていて、これが異常に格好良い。トリッキーな変拍子とラップを合わせる蛮勇が自然に成立してしまっているのは、もう可笑しさがある。とりあえず少しでも聴いたらこの魅力がわかるので、是非聴いて欲しい。


Moe and ghosts × 空間現代 "RAP PHENOMENON" trailer

MOROHA/MOROHAIII

MOROHA III

MOROHA III

今年一番エモかったのがMOROHA。

強度×純度、少年マンガのように明解な方程式で生まれた音楽の説得力でリスナーの心をぶち抜いてくる。スタイルを変えずレベルを上げることで音楽をここまで高めてきた、その道程だってエモい。熱い。その熱さに、聴いていて思わず腕を振り上げたくなるアルバム。

とりあえず「tomorrow」のPVを観て欲しい。泣く子も黙るイケメン東出昌大先生出演だし。


MOROHA『tomorrow』Official Music Video

泉まくら/アイデンティティ

リリックの繊細さが段違い。ラップのリズムセンスが段違い。去年も選んだけど、ずば抜け過ぎていて今年も選ばざるを得なかった。

今作はトラックのプロデューサーが統一されていることで、聴きやすくまとまっている上に、より泉まくらのセンスが肌で感じられる作品になっている。折角リスナーに伝わりやすいアルバムなんだもの、男女問わず、日本の十代全員に泉まくらを聴く機会がありますように。


泉まくら 『アイデンティティー』 (Digest)

Have a nice day!/The Manual (How to Sell My Shit)

The Manual (How to Sell My Shit)

The Manual (How to Sell My Shit)

今年一番ヤバかったバンド。

変化球や飛び道具を一切使うことなく、単純なフレーズの繰り返しで、ポップでダークでアンダーグラウンドなサウンドを構築することができる。これはとんでもない才能だと感じた。アルバムタイトルの「The Manual (How to Sell My Shit)」というのも痛快で、恐らく彼等ならお茶の間を賑わせるポップソングを作曲することも朝飯前だろう。そんな彼等が夜な夜なライブハウスに火を付けるために肉弾戦を仕掛けている、という事実が最高。


Have a Nice Day! ハバナイ / The Manual(How to Sell My Shit) 2016.11.09 Release

bonobos/23区

23区

23区

bonobosのここ数年のアルバムは色々実験的ではあったけれど、ここにきて突然えげつないグルーヴ感、ファンク感、ジャズ感がぶち込まれたアルバムが出てきて驚いた。bonobosらしい軽さは確かにあるけれど、過去作にあった牧歌的な印象は無い。現代らしいシティポップらしさはあるけれど、音の根底には太い弾力性が存在する。

メンバーチェンジによって大変な化学反応が起こってしまっている。「bonobos? ああ、知ってるし大体想像つくわ」と思ってスルーする前に一度聴いて欲しいアルバム。


bonobos - Cruisin’ Cruisin’

Seiho/Collapse

Collapse [ライナーノーツ封入・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC509)

Collapse [ライナーノーツ封入・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC509)

前に一度Seihoのライブを観た時に感じた「とりとめの無いような音群なのに異常に踊れるこの音楽センスヤバい」という感覚が、このアルバムではより研ぎ澄まされた形で具現化されていた。

電気的なんだけど、何故か大型動物の息吹を感じる音楽。温もりが伝わってくる。荘厳さと恐れがうっすらと伝わってくる。確かに行きている脈動が伝わってくる不思議なアルバム。


Seiho - The Vase

never young beach/fam fam

fam fam

fam fam

お別れの歌のPVが最高だから入れた訳じゃ無いけど、お別れの歌のPVは間違いなく最高。

フォークミュージックが根底にありながらも、決してただ古臭いわけじゃない。新しいインディーロックの手法を古い曲調にアレンジしているような、情熱をフォークに落とし込んでいるような、そんな手の込みようが素敵。自分達の音楽を愛していることが伝わってきて、すごく良い。


never young beach - お別れの歌 (official video)

過去の10枚

2015年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2016/01/02/184449

2014年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/2014/12/31/132004

2013年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20131231/1388501652

2012年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20130115/1358261719

2011年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20120118/1326889267

2010年の邦楽10枚

http://metaparadox.hatenablog.com/entry/20110411/1302534280

相対性理論 presents 「八角形」@日本武道館 (2016.07.22)

相対性理論日本武道館公演「八角形」を観た。

相対性理論の新譜「天声ジングル」唯一のレコ発ライブである「八角形」。二度とない演出のライブが行われることは明らかで、恐らくこのライブを最後に二度と演奏されない曲もあるだろう。アルバムをループ再生しながらどっぷりと浸かっているうちに、ふと気が付くとチケットの先行予約を申し込んでしまっていた。

取れた席は二階の南側。二階? これはハズレかな? と最初は思ったけれど、武道館は二階でもステージとの距離はないと聞いているし南側はライブステージと正対できる角度のはずなので、期待して臨んだ。

ライブステージは公演名通りに八角形だった。黒い八角形のステージが、八角形の武道館一階フロアの北側に設置されていて、そのステージの後ろに三面鏡のようにスクリーンが三枚設置されている。使われていない北西、北、北東の二階席と一階のステージの間にスクリーンが設置されている構成、といえばイメージし易いだろうか。

19時の開演時間を過ぎること15分。会場が暗転し、スクリーンにFLASHBACKのPVが映し出されてライブが始まった。


相対性理論『FLASHBACK』 MV(監督:黒沢清 )

ライブスタート

一曲のPVが終了するとステージにメンバーがスタンバイしており、「天地創造投げ出して あれから世界は」とのボーカルと共に、いよいよライブが始まった。そう、一曲目は「天地創造SOS」。

新譜「天声ジングル」は、人類の始まりから終わりまでがイメージされており、最後の曲である「FLASHBACK」を挟んでループするような構成になっていたので、そのアルバムを実演する形になるのだろうなあと想像できた。曲順通りに続いた二曲目の「ケルベロス」までは演奏がまだ固く、特にオリジナルメンバーの二人が調子出ていない印象。このままアルバム全曲演奏のみで終わるようだとちょっと辛いかもしれない、と思っていたところ、三曲目に挟み込んできたのが「地獄先生」。今日の相対性理論は旧曲の安定感がとても高く、この「地獄先生」で一気に息を吹き返した。

そして四曲目は、新生相対性理論の代表曲である「キッズ・ノーリターン」。以前になんばHatchで聴いた時にも衝撃を受けたけれど、キッズ・ノーリターンのSingle Ver. アレンジはツインドラムの迫力が本当に格好良い。正確な変拍子リズムをダイナミックにメリハリを付けて演奏することで生じる格好良さをこれでもかとばかりに魅せつけてくれる。

続けて、「お客様の中に、わたしはいませんか」と円城塔先生もきっとニッコリするだろうMCを挟んで、「わたしがわたし」を演奏。新譜三曲目のウルトラソーダが飛ばされてしまい、ここからはあまり新譜の曲順にこだわらない流れで演奏が進んでいく。

八角形のステージの上、メンバーは五角形のポジションが立ち位置になっていた。フロントは中央に一人、やくしまるさん。その右後ろにギターの永井さん、左後ろにベースの吉田さん、さらにその後ろをフロント寄りで、左側イトケンさん、右側山口さんが並ぶ、といった五角形の立ち位置構成。正直二階席からは、人が判別できるほどにはっきりとは見えなかったので、違うメンバーだった可能性もあるけれど……。

演奏を通じて、ドラムとベースの安定感がとても高いことに驚く。音源の演奏は決して簡単でない、むしろかなり精緻なバランスが保たれているのに、その音源以上の演奏をし続けるリズムパート群の練度の高さには感服した。しかし、今日の客席はスタンディングが許されない。思わず立とうとした人は係員に静止され、全員着席状態を強いられた。リズムに乗りたいのに乗れないもどかしい時間が続く。そもそも体をゆらゆらさせるような人も少なくて、微動だにせず食い入るように見る観客が大半を占める、なんだか不思議な空間だった。

拍手以外にレスポンスのない観客が初めて「反応」したのは、「いいよ、ずっきゅんしても」とのMCに対しての黄色い悲鳴だった。そこから始まったのはもちろん「LOVEずっきゅん」。音源よりもリズムパートの迫力が増し、ジッタリン・ジンの「夏祭り」のようにダイナミックな躍動感がある演奏が繰り広げられ、曲の懐かしさと相まって心が温まった。

ロンリープラネット

ドラムが強調されてダイナミックさが増した「弁天様がスピリチュア」の演奏後、やくしまるさんは一旦退場。そこから他メンバーによる演奏が続く。後ろのスクリーンには宇宙をイメージした映像が投影され、時折途切れ途切れに「地球はどうなっていますか」といったような、やくしまるさんのメッセージボイスが挟まってくる。幕間を繋ぐような即興っぽい演奏だったけれども、宇宙時間を早回しするようなイメージが頭に浮かんでくるにつれ、これは計算された「演奏」なのだと気付いた。何らかの明確な意図がきっとここにはある。そもそも幕間としては演奏時間が経ち過ぎている。

十分程経っただろうか、再登場したやくしまるえつこがdimtaktを振りかざし、ノイズのようなサウンド流れた。その瞬間、今から「ロンリープラネット」が演奏されること、そして、これまでのインストゥルメンタルの演奏が、ロンリープラネットに繋がるイメージだったことに気付いた。イントロのアコースティックギターが鳴った瞬間、観客からも歓声が沸き上がったように思えた。


やくしまるえつこ『ロンリープラネット』(RADIO ONSEN EUTOPIA) MV Full ver.

やくしまるえつこ名義の曲であるロンリープラネットだけれども、よく考えたら今日のライブのイメージにはピッタリの曲だった。宇宙のイメージが一気に集約されるような、心に大きく深く染み渡る演奏に心を貫かれて、呆然としてしまった。

全長として二十分を超えただろうロンリープラネットが終了し、観客からの今日一番の拍手があった後、始まったのはなんと「Z女戦争」。ティカ・α名義でももいろクローバーZに提供し、シングルになった曲だ。ロンリープラネットでの静謐な空気を一転させるアイドルモードには驚かされた。

しかもこの「Z女戦争」、ファンサービス的に頑張ってバンドアレンジで演奏してみました、なんてレベルの演奏ではなくて、異常に完成度が高いロングバージョン。やくしまるさんのアイドル没入感も相当のもの。ももいろクローバーZに完成してもらった曲のパワーを、相対性理論として更に昇華させたこの演奏には驚くばかりだった。

一気に盛り上がったステージで、「落ち込んだりもしたけど、私は天使です」とのMCで始まった「ベルリン天使」から新譜モードがゆるやかに再開。途中に「ミス・パラレルワールド」を挟みつつ、新譜の曲を続けて演奏しながらライブは終わりに向かった。

ライブ終了へ

「一身上の都合により、終わりを始めます」とのMCで始まった「おやすみ地球」では、強めの白いスモークに向けて青色と緑色のライトで一階席を照らすことで、一階席の上空を宇宙から観た地球のように見せるような演出もあった。驚くほど「緑と海が雲に覆われているイメージ」になるんよね。とても良い発想だった。今回のライブ、武道館のような大舞台にありがちな大掛かりなセットはなかったけれど、よくよく準備が練られた演出が多いなあと心から思った。同じような演出をし続けるのではなく、数分間のために凝ったような演出がとても多く、とても貴重な瞬間の連続だった。

最後は「FLASHBACK」。ただし今度は生演奏。ライブの冒頭と繋がり、天地創造が輪廻したところで本編は終わった。

アンコールの一曲目は「スマトラ警備隊」。以前聴いた時にも思ったけれど、原曲よりもテンポが数段速い。テンポが速いことで曲の持つインディーズロックっぽいイメージが強まるので、これはとても良いアレンジだ。そして最後は、新譜収録曲の中で唯一演奏していなかった「ウルトラソーダ」。アルバムの中でも少し浮き気味の先行曲だったので、アンコールに回したのは正解だったと思う。

演奏後、「またね」と言い残してアンコールも終了。終演となった。

音楽として、映像として、何次元にも果てない世界を観せてもらった二時間強だった。

ただ通常のバンドのライブとは異なり、演奏者と観客で空気を作り上げるという雰囲気は一切無いライブだった。ステージで繰り広げられる演奏に対して、観客は何も干渉ができず、立つことも許されず、ただの観測者でしかなかった。「参加者」ではなく「観測者」だった、そのことがもどかしく、苦い味として心に刻まれた。それはとても相対性理論らしい「切なさ」だった。

セットリスト

~アンコール~

【エレキ大浴場 29】 eastern youth/ZAZEN BOYS@京都MOJO (2016.04.23)

京都MOJO、エレキ大浴場がまたやってくれた。

bloodthirsty butchersZAZEN BOYSのツーマンから三年後。

metaparadox.hatenablog.com

eastern youthZAZEN BOYSの対バンが、ここ京都MOJOで実現した。巨頭激突、再びである。

チケットは早々にソールドアウト。数日前になって仕事の都合が付いたもののチケットがないので諦めていたところ、幸いにもTwitterで譲渡の申し出を頂くことができた。しかも店頭販売チケットの一桁番号という最前列確定の番号。大感謝だった。ありがとうございました!

最前列のステージ向かってやや右に陣取り、開演を待った。ステージと最前列の柵までの距離がゼロ、客席とステージはスクリーンで仕切られているけれども、スクリーンの向こうから息遣いが聞こえてくる。目と鼻の先でライブが始まる。開演前から異常に緊張が高まってきた。

eastern youth

ZAZEN BOYSが先かと思っていたけれども、eastern youthが先にステージに登場。メンバー交代の影響かな?

持ち時間の一時間は短い、とばかりに最初から完全燃焼状態のパフォーマンスが展開されるeastern youth。一曲目から吉野さんのメガネが曇り出すような大熱量がステージから客席に向けて放たれていく。

ベースが二宮さんから村岡さんに変わってから初めて観るeastern youthのライブだったけれども、その第一印象は「一皮むけた」サウンド。二宮さんとの三人のサウンドは「鉄壁」で、完成度の高さは随一だったけれども、村岡さんとの三人のサウンドは、分かりやすくなった音が一つ一つ襲いかかってくる「精強」な印象。どちらも強いサウンドだけれども、方向性が違う。大きく変化する可能性が感じられて、今後が楽しみになった。

三曲目「与えられた未来は要らねえ、直に掴み取る」とのMCから始まった"直に掴み取れ"でぐっと観客の熱量が上がる。客演をしていた向井さんが途中で出てくるかな?と少し思ったけれども、向井さん登場は無く、少し残念だった。ただ、そこから被災者へエールを送るように始まった"ナニクソ節"で、足下から一気に湧き上がり燃え上がった。

そして、一番盛り上がったのは"たとえば僕が死んだら"。まだまだこの曲の人気は根強く、ZAZEN BOYS含めても今日一番のモッシュが発生した。うわあ圧縮だ、おっさん元気だなあと思ったけれども、振り返ると前方に出てきたのは大学生くらいの若者が多かったのには驚いた。若いファンいるじゃないか。まだまだeastern youth現役だわ。

ラストは"街の底"。熱量極まっても、駆け足にならずに力強く噛みしめるように歌われていくところはさすがベテランの足腰を持つeastern youth。新しくなったが、持ち味は失っていないeastern youthのライブを堪能した。

ライブが終了してステージ転換が始まった時、ステージのアンプの上で一輪挿しになっていたオレンジ色のガーベラを、隣にいた女の子がローディーさんから受け取っていた。その女の子によると、ライブが終わった後にステージの一輪挿しを観客に渡すことがあるのだとか。一輪のガーベラを守るように、胸元で大事そうに抱きかかえながら次のステージを静かに待っている光景が、とてもeastern youthらしい可憐さだだった。

ZAZEN BOYS

後攻はZAZEN BOYS

最近のワンマンのライブを圧縮したようなセットリストが展開されたけれども、鉄板だった"Honnnoji"がセットリストから落ちた。"泥沼"を演らないのも珍しい。"すとーりーず"以来、新曲が作られないまま四年経っているけれど、構成は少しずつ変わってきている。

今日一番盛り上がったのは"サイボーグのオバケ"。歌詞にある「陸軍中野学校予備校理事長 村田英雄」の村田英雄を言い換えるのがライブでの定番なのだけれども、今日はプリンス。「内閣総理大臣 プリンス! 国家公安委員会委員長 プリンス! 農林水産大臣 プリンス! 陸軍中野学校予備校理事長 プリンス!」と、ゴロの悪さなんぞ屁でもないとばかりに名前を連呼し、向井さんらしくプリンスを追悼した。

しかし、そこからは「長澤まさみのブラジャー→パンツ→脱がすとそこには内蔵→倍増→倍返し→堺雅人の顔真似で『倍返しだ!』をキメる」というHENTAI展開で一気に雰囲気がエンタメに。今半沢かよ!逆に新鮮だわ!聴く度に内容の変態性が増しているサイボーグのオバケ、まだまだ留まるところを知らないようだ。

"COLD BEAT"では、ライブ中に向井さんがメンバー三人を指揮するパートがあるのだけれど、それもなかなかの支離滅裂ぶり。エンタメを通り越してシュール・狂気の域に達していた。パターンの準備なく、何をやるか突発的に考えている感じ、最近ではなかなか珍しいと思う。

今日は普段に増してクレイジーな発言が多かった向井さん、唐突な謎の身振りも多く、すっかり煙に巻かれてしまった。

アンコールは"はあとぶれいく"一曲で終了。"Asobi"か"Kimochi"で終了すると思っていたので意外だった。最後はダブルアンコールを求める拍手を、吉田一郎さんの挨拶で収めて終了した。向井さんの隣にあったいいちこの減りが悪かったので、今日はあまり体調が良くなかったのかもしれない。

セットリスト

  • 6本の狂ったハガネの振動
  • Himitsu Girl's Top Secret
  • Riff Man
  • MABOROSHI IN MY BLOOD
  • 暗黒屋
  • サイボーグのオバケ
  • 天狗
  • COLD BEAT
  • Friday Night
  • 破裂音の朝
  • 自問自答

~アンコール~

  • はあとぶれいく

終演

ライブ終了と共に、どっと疲れが襲ってきた。両バンドの演奏に引き込まれ続けていて、疲労に全く気付けていなかった。途中で冷静となる瞬間がほぼ無かったものなあ。これは唾かぶり最前列で見続けることができたせいでもあるだろう。

ステージとの距離の近さのおかげで、今日はかなり詳細にステージを眺めることができた。eastern youthの熱量も、ZAZEN BOYSの一体感も、観る距離の違いで印象が大きく変わってくるもので、今日は色々な発見があった。ライブを観る時は「なんやかんやで中央五列目~十列目位で観る」が最近よくあるパターンだったけれども、たまには違う場所で観るべきだなあ。最近は最前列で観ることにこだわることがほぼ無くなっていたけれど、やっぱり良いね、最前列。